個別株予想に挑む~IBMと係争の果てに~過去の主戦場メインフレームと決別した富士通の行く先は (2)

富士通のジョブ型雇用は機能しないだろう!

前編~個別株予想に挑む~IBMは何故amazonになれないのか~メインフレームと決別して何処へ (1)

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読み始める前に

既に開示されている資料の解説や、証券アナリスト的分析は避けている。
別視点から核心に迫っていきたい。
前編の(1)ではIBMに関して考察、IBM株への投資を検討している方々には面白くない結末だったかもしれない。
この続編(2)では当初、富士通の現社長時田氏の転換への様々な決断が有効に働くかどうか分析し富士通の未来にたどり着こうと思っている。
その切り口の一つとして企業文化から切り込めば核心に迫れて未来が見えると思った。
しかし、2022年メインフレーム事業からの撤退方針を明らかにした事象考察から、富士通の現在に至るまでの物語は、今だけ切り取るそんな簡単な話ではないと思うようになった。
現在の17代時田社長の方針が何故出てきたか、16代田中前社長はなぜ退いたのか、その更に前の社長交代劇のお家騒動とはと、疑問は次々湧いてきた。
そして富士通衰退の起点、11代秋草社長まで歴史を遡り富士通の企業文化とはなにか迫りたいと思った。
最初は次項の推考で核心が見えると思っていたが、そんなに生易しくないことに気づき削除も考えたが、企業研究特に後段で取り上げる「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」に関連あるため掲載することとした。

「オーケストラ」と「道」~なんという文化の違い

日本と欧米の違いをよく表しているものにオーケストラがある。
オーケストラは弦楽器(バイオリン、ビエラ、チェロ、コントラバス)、木管楽器(フルート、クラリネット、オーボエ、サクソフォーン)、金管楽器(トランペット、ホルン、チューバ、トロンボーン)、打楽器(ティンパニ、バスドラム、シンバル)、全て多種に細分化された楽器類で構成されている。欧米はなんなら楽器ではないがくるみを割るためだけの機械「くるみ割り器」まで作ってしまう文化だ。

一方和楽器だが琴、三味線、横笛、尺八、鼓(つづみ)、和太鼓とシンプルだ。そこには機能別に違う楽器を作り出すというよりは一つの楽器で様々な音色を表現する匠の道が最高という思想がある。「くるみ割り器」は考えつかない。やっとこひとつで器用に割る技術を持つ人が凄いとされる。

そして両者の最も特徴的違いは日本の楽器はオーケストラのように組織化されていないことだ。
オーケストラの多様な楽器類は指揮者というソフトを通してアウトプットされる。
他方日本は「道」の文化だ。鼓や和太鼓の打楽器ですら匠の道でそれだけで表現してしまう。オーケストラの発想はない。
必要な音色はどんどん細分化され楽器が作り出され増えていっても、それをまとめるソフトウエアすなわち指揮者が存在するオーケストラの音と、道を極めた匠の技で出す音とは明確に差がある。
日本は柔道、剣道全て「道」を極めることこそが究極の目的。様々な異質なものを束ねて強力な一つのシンフォニーに仕上げる文化がない。

この文化の違いは企業文化においても組織化という点で欧米が優越する、越えられない大きな要素の一つだ。

メンバーシップ型とジョブ型~欧米と日本の企業文化の違いを富士通は超えられるか

日本の会社は全てメンバーシップ型だ。
新卒一括採用でその会社の社員となり競争が始まる。その競争を勝ち抜いた少数が企業トップへとなっていく。
欧米の会社は基本的にジョブ型だ。自分の仕事しかしない。しかしそれを束ねるプロの経営者は日本と比べ段違いに豊富で優秀で猛烈に働く。経営技量も非常に高く層も厚い。

1993年富士通は成果主義型賃金をいち早く取り入れたが、その後の変遷を見ると間違いなく失敗だった。実態は年功序列だったようで上辺だけの成果主義であったようだ。色々議論はされているがここでは掘り下げない。
名ばかりの成果主義のもと、多くの優秀な人材が辞めてしまった。
2019年6月に就任した時田社長は今までの成果主義ではなくジョブ型に切り替えようとしている
ジョブ型は職務を明確にした上での成果給だ。欧米のように機能すれば独創的、革新的な人材をきっと生む。その人材を活かす力は欧米の会社は長けている。企業に必要なピースを自由に作り出しその人材を募集する。そしてそこにはプロの経営者や予備軍がいてまとめあげる。彼らはオーケストラでいう指揮者を目指している人材たちだ。彼らもまた経営者というパーツなのだ。
ここが日本と決定的に違う。日本のメンバーシップ型で集められた優秀な大学卒業の人材はプロの経営者として鍛えられていくわけではない。
これは正にオーケストラのように文化に根ざした企業文化の差ではないか。
しかしメンバーシップ型で築かれてきた富士通に優秀な人材を束ねる指揮者たちは居るのだろうか、訓練されたプロの管理職はいるのだろうか。
従来のメンバーシップ型採用で競争を勝ち抜いた人にそのソフトウエアは備わっていない。
明示された職務以外は行わないジョブ型社員の手の届かない隙間を、メンバーシップ型で採用された上司が必死にカバーしててはせっかくの制度が威力を発揮しない。時田社長はこれを一気に進めようとしている。
企業文化の大転換でそれは大事業であるけれど、指揮者たちを質・量ともに育てるビジョンがあるかどうかが成否を分けるように思える。社員教育投資は聞くが指揮者を育てようという教育投資の話は聞かない。海外勤務歴のある時田社長は教育投資に欧米と圧倒的差があることは認識しているだろうが、組織として力を発揮させる人材育成すなわち指揮者育成の教育投資を認識しているのだろうか。
ジョブ型が簡単に成功するとは思わない。

欧米のJob型雇用と日本型終身雇用

これは日本の一流企業に勤めてアメリカでマネージャーの仕事をされた知人から聞いた実際の話しです。

知人の話

夜遅く残るのは自分だけでスタッフは全員定時で帰るそうです。ビルの清掃に夜来る黒人の方と仲良くなりいろいろ聞いてみたそうです。夜遅い清掃の仕事は大変なので転職は考えないのですかと今の仕事への不満とか。しかし、その方はこの生活から脱出する見込みはないと言うのです。日本の会社と全く構造が違うアメリカの会社構造とはこのように悲惨なものだと知人は自分の見解や経験談を話してくれました。

欧米のJob型雇用がもたらすもの

ビルの清掃をしている黒人男性はもうこの生活からは逃れられません。なぜなら彼のJobはビル清掃だからです。彼は少しでも給料の良い雇い主を探しますが仕事はビル清掃なのです。

日本人上司がこの仕事をするように頼んでも、あるいは命じても部下たちは会社との契約にそのJobが入って無ければ決してしません。契約にないからです。自分の契約上のJobが終われば帰宅します。
日本人上司の仕事は、そのJobをするスキルのある人物を探し契約することです。

会社で先輩は後輩に決して仕事を教えません。なぜなら自分より若い人のスキルが自分と同等になれば自分が首になるからです。その先輩がすることは、自分のスキルを上げて更に条件の良い会社を探すことなのです。

後輩は必死に先輩の仕事を盗もうとします。なぜなら先輩は決して自分に仕事を教えないし、自分も後輩に仕事を教えるつもりはないからです。

欧米の会社は間接部門がなく非常に効率的です。稼ぐ人しか必要ではありません。社員教育係や社内レクリエーションなど考える人はいません。間接部門が非常に少ないので経営指標のROEなどは日本の会社と比べ物らならないくらい良いのです。

欧米の会社を日本の会社が買収してもほぼ成功しません。なぜなら、有能な社員にとって日本式の経営など自分のJobのスキルアップに邪魔だからです。有能な人間から辞めて無能な人間しか残りません。

欧米の会社構造

間接部門が極端に少ない欧米の会社は極めて効率的です。有能なパーツをたくさん集めてまとめ上げるオーケストラの文化です。指揮者は楽器の演奏者がスキルアップしてなるものではなく、最初から指揮者を目指し鍛錬します。指揮者すなはち会社で言うマネージャーが経験を積んだ有能なマネージャーであれば見事な集団に会社をまとめ上げます。

「ベースボール」と「野球」の差はJob型雇用かメンバーシップ型雇用かです。スキルを上げてより良い契約を勝ち取る「ベースボール」か、球団に献身的に貢献してずっと雇用してもらう「野球」かと考えると分かりやすいです。「MLB」と「プロ野球」の球団は構造自体が違うのです。

日本の現状

贅肉を削ぎ落とした効率的な欧米企業に対抗できるのは、終身雇用で徒弟制度のように先輩が後輩にノウハウの伝承をし、社員教育や福利厚生のような間接部門が充実している日本型雇用でしょう。しかし、それは既に捨て去られました。

日本で成果報酬主義がことごとく討ち死にしたように、形だけのJob型雇用はことごとく失敗するでしょう。そして日本のJob型雇用は全て呼び名だけのものです。欧米の会社の構造が全く違う中でジョブ型雇用は機能しているのです。まるで流行のようにJob型雇用を導入したという企業は多くあります。名前は同じでも似て非なるものです。メンバーシップ制の呼び名を変えただけです。

歴代社長系譜~富士通転落の起点秋草社長から事業売却とリストラの変遷

系譜年表に関しては後の見出しごとに関連年表明示するので、ここでは斜め読みして頂いて構わない。

歴代社長象徴的な仕事買収、売却、設立、提携特記事項
秋草直之(1998年6月~2003年6月)
1998年以降坂道を転がるようにIT企業の負け組となり富士通をだめにした男と呼ばれた。相次ぐ業績不振の最中インタビューで「くだらない質問だ。従業員が働かないからいけない。」と答えたのは有名な話。
ハードからソフトへの転換と異業種提携をリード。
2001年3,000億円かけて大規模リストラ実施、「経営責任はない」と言い放った。
2期連続大幅赤字の責任を取り社長を退くが代表権持つ会長兼CEOとなり権力基盤は強まった。
(2000)さくら銀行(現三井住友銀行)とジャパンネット銀行設立
(2002)アクセンチュアと提携
富士通史上初の文系傍流の社長。
2008年会長辞任後も代表権を持つ相談役にとどまり取締役会を牛耳った。後にニフティのお家騒動で野副社長を辞任に追い込んだ。
黒川博昭(2003年6月~2008年6月)
取締役ではないのに秋草社長に抜擢指名され実際は秋草会長兼CEOの独裁体制であった。
黒川社長自身は権力闘争に全く興味のない人物であった。
ITサービス事業の再構築を野副氏とともにやり遂げ黒字体質へ。SEと営業の融合に腐心した。
ワンマンコントロール体制で強力に会社を変えたが、弊害が出てきたと自ら社長を辞した。
野副州旦(2008年6月~2009年9月)
海外勤務経験者初のトップ。
当時隠然として力を持っていた秋草相談役より追い落とされる。後に裏事情を暴露し秋草相談役と刺し違えた。
ITサービス事業のグローバル化を期待さSunMicrosystemsやIntelとの連携を図った。
PC、携帯、半導体事業の売却検討。
(2009.2)HDD事業を東芝と昭和電工へ売却。秋草氏より、ニフティの売却に絡んだ投資ファンドが反社勢力だとの疑惑を持ち出され辞任に追い込まれる。後に反社でないと判明。
間塚道義(2009年9月~2010年3月)
2008年6月副社長から代表取締役会長へ。2009.9月野副社長辞任劇で社長を兼務。2010.3月70歳の年齢規定より退任。
2010年3月野副相談役解任。
野副相談役が自分の辞任劇の裏事情を暴露、秋草相談役も取締役を退任し富士通を去った。
山本正己(2010年4月~2015年6月)ソフト、サービスとハードを自前で提供できる「垂直統合」が出来るものづくりの会社であることを標榜し、パソコン事業などプロダクトへのこだわりを見せた。
半導体事業の構造改革を推進。
(2012.4)富士通セミコンダクター岩手工場をデンソーへ売却。
(2014.8)システムLSI主力工場の三重工場を台湾UMCへ段階的に売却。第一候補TSMCから相手にされず。
2014.1月IBMのx86系サーバー事業の買収を狙っていることが判明。結局レノボが買収した。
田中達也(2015年6月~2019年6月)グローバル事業拡大し比率50%へ。
連結売上高利益率10%以上の達成目標。
ソフト、サービス部門に経営資源を集中しビジネスの質と形を変える。
従来の3本柱のユビキタス事業とデバイス事業は売却方針。
(2015.10)富士通クオリティ&ウィズダム設立、役職離任した元管理職SEの受け皿。
(2017.4)カーナビの富士通テンをデンソーへ売却。
(2017.10)富士通セミコンダクター会津若松工場のアメリカのオン・セミコンダクター出資比率を段階的に高め2020年目度に売却発表。
(2017)ニフティは2つに分社(富士通クラウドテクノロジーズとニフティ)。コンシューマー向け事業のニフティ㈱は㈱ノジマに売却。
(2017)PC事業をレノボに売却すると発表。
(2018)携帯電話事業を投資ファンドへ売却。
(2018.10)業務用パソコンとサーバーの生産基地ドイツアウグスブルグ工場を閉鎖発表。
(2019.4)富士通クオリティ&ウィズダムを本体へ統合。
2018.10月総務・経理の間接部門従業員5,000人規模の営業・SEへの配置転換。
2019.3月本社・グループ会社全従業員対象の早期退職制度で3000人弱のリストラ。
時田隆仁(2019年6月~ )ジョブ型雇用へ移行しDX企業へ転換を図り組織改革を推進する。
営業利益率10%を目標。
リストラは継続。
(2020.9)携帯電話販売事業を国内最大手へ売却。
(2020.10)富士通Japan発足(ITサービス事業の一貫事業体制構築のため富士通マーケティングと富士通エフ・アイ・ピー他地域子会社群を統合)
(2022.4)全額出資子会社スキャナー大手PFUをリコーに売却。
(2022.5)富士通セミコンダクターの子会社富士通セミコンダクターメモリソリューションを国内投資ファンド設立子会社へ売却。
2020.10月東証システム障害
2021.2月みずほFGシステム障害(富士通、日本IBM、日立)
2022.2月メインフレーム事業とUNIXサーバー事業からの撤退表明。
2022.3月グループ会社所属の50歳以上課長級以上の3,000人強のリストラ。
富士通衰退の起点11代秋草社長からの系譜

11代秋草社長は14代間塚社長時代まで経営や人事に強い影響力を持ち続けた。
15代山本社長は野副路線と全く違う道を示したが、16代田中社長は方針転換し野副路線に近づいた。
17代時田社長はその延長線上にあり路線は継続されている。

富士通の歴史を振り返ってみる~凋落はここから始まった~秋草政権時代

1993年人事制度にいち早く成果主義を取り入れた富士通は混迷を極めた。
これについては様々記事も出ており完全な失敗と断じていいだろう。
ITバブル崩壊と相まって、1998年就任の11代秋草社長のもと富士通は坂道を転がり落ちていく。
何故か14代間塚社長時代まで代表権を持つ相談役という不思議な肩書で経営と人事に影響力を持った
そして野副社長追い落としのお家騒動までおこした。
密室の中、反社勢力の絡んだニフティ売却話の責任を取らせる形で野副社長に辞任を飲ませた。
当時の肩書は代表権を持つ取締役相談役。陰の実力者であった。
何故影響力を持てたのか、野副社長に嘘の反社勢力との関係まで作り上げた退陣要求の根本原因は何だったのか本当のところはよく分からない。
秋草社長は富士通史上初の文系出身だった。傍流でどうしても成果を出さないといけない中、ITバブルで2000年1月株価は史上最高値の5,030円をつけた。
バブル崩壊後、業績も株価も坂道を転がり落ちていき大規模リストラが待っていた。ここからの富士通の歴史は事業売却とリストラの連続だ。
業界紙のインタビューで「くだらない質問だ。従業員が働かないからいけない。」と答えた秋草社長。
タブーを破りたかったと後に語った秋草社長の終身雇用破壊のリストラは、未来と引き換えに富士通を守ったかもしれない。
富士通の歴史を見ていると、この企業に未来はあるのかと思ってしまう。

歴代社長
  • 1998年6月
    第11代社長 秋草直之

    1998年以降坂道を転がるようにIT企業の負け組となり富士通をだめにした男と呼ばれた。相次ぐ業績不振の最中インタビューで「くだらない質問だ。従業員が働かないからいけない。」と答えたのは有名な話。

  • 2003年6月
    第12代社長 黒川博昭

    取締役ではないのに秋草社長に抜擢指名され実際は秋草会長兼CEOの独裁体制であった。
    黒川社長自身は権力闘争に全く興味のない人物であった。

  • 2008年6月
    第13代社長 野副州旦

    海外勤務経験者初のトップ。
    当時隠然として力を持っていた秋草相談役より追い落とされる。後に裏事情を暴露し秋草相談役と刺し違えた。




  • 2009年9月
    第14代社長 間塚道義

    2008年6月副社長から代表取締役会長へ。2009.9月野副社長辞任劇で社長を兼務。2010.3月70歳の年齢規定より退任。

  • 2010年3月
特記事項
  • 秋草直之

    2000年1月ITバブルで株価は5030円の史上最高値をつけた。
    2001年3,000億円かけて大規模リストラ実施、「経営責任はない」と言い放った。
    2008年会長辞任後も代表権を持つ相談役にとどまり取締役会を牛耳った。

  • 黒川博昭

    ITサービス事業の再構築を野副氏とともにやり遂げ黒字体質へ。SEと営業の融合に腐心した。
    ワンマンコントロール体制で強力に会社を変えたが、弊害が出てきたと自ら社長を辞した。

  • 野副州旦

    ITサービス事業のグローバル化を期待さSunMicrosystemsやIntelとの連携を図った。
    PC、携帯、半導体事業の売却検討。
    秋草氏より、ニフティの売却に絡んだ投資ファンドが反社勢力だとの疑惑を持ち出され辞任に追い込まれる。後に反社でないと判明。

  • 間塚道義

    2010年3月野副相談役解任。
    野副相談役が自分の辞任劇の裏事情を暴露、秋草相談役も取締役を退任し富士通を去った。

買収、売却、設立、提携

(2000)さくら銀行(現三井住友銀行)とジャパンネット銀行設立
(2002)アクセンチュアと提携
(2009.2)HDD事業を東芝と昭和電工へ売却。

15代社長山本正已~野副路線へのアンチテーゼか

野副社長のお家騒動による急な退陣と、それを引き継いだリリーフ的存在だった間塚会長兼社長を経て社長に就任。
当時の野副相談役が辞任裏事情暴露で秋草相談役と刺し違えた後、秋草相談役が富士通を去る前に最後の影響力を行使したのだろうか。
リーマンショック後の厳しい時期に56歳の若さで就任。
半導体事業の構造改革を強力に推進した。
2014年4月には、日本、米国、アジア、オセアニア、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)の5地域によるグローバルマトリクス体制を構築しグローバル化を推進した。
クラウドコンピューティングにおける富士通の強みを、一番下(プラットフォーム)から上(アプリケーション)までつくり上げられる「垂直統合」という言葉で説明し、メーカーとしてのプロダクトへのこだわりを見せた。
コンピュータとネットワークの両方の技術を持ち、さらにそれにつながる携帯やパソコンといった端末も持つ唯一無二の会社であると位置づけた。
野副社長の非中核事業売却方針とは一線を画し、ITサービス事業へのシフトを目指しながらもメーカーへの強いこだわりを見せた

歴代社長
  • 2010年4月
    第15代社長 山本正己

    ソフト、サービスとハードを自前で提供できる「垂直統合」が出来るものづくりの会社であることを標榜し、パソコン事業などプロダクトへのこだわりを見せた。
    半導体事業の構造改革を推進。

  • 2015年6月
    第16代社長 田中達也
特記事項
  • ⑮山本正己

    2014.1月IBMのx86系サーバー事業の買収を狙っていることが判明。結局レノボが買収した。
    (2012.4)富士通セミコンダクター岩手工場をデンソーへ売却。
    (2014.8)システムLSI主力工場の三重工場を台湾UMCへ段階的に売却。第一候補TSMCから相手にされず。

買収、売却、設立、提携

(2012.4)富士通セミコンダクター岩手工場をデンソーへ売却。
(2014.8)システムLSI主力工場の三重工場を台湾UMCへ段階的に売却。第一候補TSMCから相手にされず。

16代田中社長はITサービス事業へ大きく舵を切った~長期政権とはならなかった

グローバル事業への注力の必要性から指名。
珍しい営業出身の社長で海外歴長い。
アジアではIT総合力ではなく各国で国ごと課題に向き合い分野ごとのナンバーワンを目指す姿勢。
海外売上比率50%以上と連結売上高利益率10%以上を掲げた。
しかし2015年10月田中社長は経営方針の転換を発表。システム構築やソフトウエア、ITインフラ機器でのテクノロジーソリューション事業に経営資源を集中し、ユビキタスソリューションやデバイスソリューションは外部資本導入で独立させる方針に変え従来の3本柱であったものを転換した。
非コア事業と位置づけたカーナビ(富士通テンをデンソーへ)、パソコン(レノボ傘下へ)、インターネット接続サービス(ニフティ売却)、半導体製造(富士通セミコンダクター会津若松工場)などの事業を担当する子会社は当初方針通り売却分離した。
海外向け業務用パソコンとサーバーの生産基地ドイツアウグスブルグ工場も閉鎖した。

当初はユビキタス事業やデバイス事業を切り離せば利益率10%の目標達成はできると踏んでいたが、2018年10月営業利益率10%の達成時期を22年度に先送りし海外売上比率50%の目標を取り下げた。
連結売上高利益率10%以上から軌道修正しテクノロジーソリューション事業の利益率を現行の2.5倍10%以上へ修正した。
役員数57人から24人へ、間接部門5000人の営業への配置転換を断行し、希望退職者2850人の応募で2019.3期461億円計上した。
一方2015年設立の元管理職SEの受け皿会社、富士通クオリティ&ウィズダムを本体へ再統合し人員を確保した。ほとんど取り上げられていないが、約500人の55歳以上の専門家集団が力を発揮したのは間違いない
このような専門家集団を冷遇すると韓国に貴重な半導体技術者が流出した二の舞いになる。
本体に再統合しどう活用するのか、彼らが統合後も力を発揮できることを願うばかりだ。
前山本社長の「垂直統合」と方針は全く違う「ITサービス事業」に舵を切った田中社長だが、目標の修正が続き4年で政権を終えた。

歴代社長
  • 2015年6月
    第16代社長 田中達也

    グローバル事業拡大し比率50%へ。
    連結売上高利益率10%以上の達成目標。
    ソフト、サービス部門に経営資源を集中しビジネスの質と形を変える。
    従来の3本柱のユビキタス事業とデバイス事業は売却方針。

  • 2019年6月
    第17代社長 時田隆仁
特記事項
  • 田中達也

    2018.10月総務・経理の間接部門従業員5,000人規模の営業・SEへの配置転換。
    2019.3月本社・グループ会社全従業員対象の早期退職制度で3000人弱のリストラ。
    役職を離れた55歳以上の元管理職の受け皿会社である富士通クオリティ&ウィズダムを2019年4月本体へ再統合。

買収、売却、設立、提携

(2015.10)富士通クオリティ&ウィズダム設立、役職離任した元管理職SEの受け皿。
(2017.4)カーナビの富士通テンをデンソーへ売却。
(2017.10)富士通セミコンダクター会津若松工場のアメリカのオン・セミコンダクター出資比率を段階的に高め2020年目度に売却発表。
(2017)ニフティは2つに分社(富士通クラウドテクノロジーズとニフティ)。コンシューマー向け事業のニフティ㈱は㈱ノジマに売却。
(2017)PC事業をレノボに売却すると発表。
(2018)携帯電話事業を投資ファンドへ売却。
(2018.10)業務用パソコンとサーバーの生産基地ドイツアウグスブルグ工場を閉鎖発表。
(2019.4)富士通クオリティ&ウィズダムを本体へ統合。

17代時田社長の決断~メインフレーム撤退がもたらすもの

田中社長の方針を引き継ぎDX企業への転換とジョブ型への働き方改革を掲げ、富士通の変革を推進している。
長年の課題であったメインフレームとUNIXサーバーからの撤退を決断
オープン化、クラウドなどとの競争での相対的地位低下と縮小する一方の市場規模が理由だ。
60年余りのメインフレームの歴史にピリオドを打つことになった。
1980年代メインフレームOSの知的財産権侵害でIBMと係争と和解を繰り返した主戦場から名実ともに去る事となった。
それによりものづくりの大きな技術と長年の顧客が危機にさらされることとなり、リプレース案件の受注は富士通にとって今後厳しいものと予想されている。
移行先はクラウドとなってくるが富士通のクラウドFJcloudに競争力はあるのか。
ハイエンド商品であるメインフレームのメーカーとしてのDNAを持つ富士通に、普及品であるクラウドコンピューターを管理できる能力があるのだろうか。
東証とみずほ銀行で起こったシステム障害が頭をよぎる。
NTTデータPITON(オンプレミスのオープンシステム)、アクセンチュア、AWS(アマゾンウェブサービス)の草刈り場になるのではないか懸念材料は尽きない。

15代山本社長時代のグローバルマトリクス体制は廃止した。
山本社長の方針と完全に決別したようにみえる。
先代田中社長時代からのリストラと事業売却は継続推進している。
企業改革のためかアナリストの評価のためか真意は分からない。
アナリスト達の評価は悪くない。継続的な株主還元(配当政策)、非中核事業の売却によるフリー・キャッシュ・フロー増などアナリストへの説明は高評価を得ている。そもそもアナリストは会社の未来図に興味があるわけではなく決算がどうなるかなのだから強気予測になるのだろう

歴代社長
  • 2019年6月
    第17代社長 時田隆仁

    ジョブ型雇用へ移行しDX企業へ転換を図り組織改革を推進する。
    営業利益率10%を目標。
    リストラは継続。

特記事項
  • 時田隆仁

    2020.10月東証システム障害
    2021.2月みずほFGシステム障害(富士通、日本IBM、日立)
    2022.2月メインフレーム事業とUNIXサーバー事業からの撤退表明。
    2022.3月グループ会社所属の50歳以上課長級以上の3,000人強のリストラ。

買収、売却、設立、提携

(2020.9)携帯電話販売事業を国内最大手へ売却。
(2020.10)富士通Japan発足(ITサービス事業の一貫事業体制構築のため富士通マーケティングと富士通エフ・アイ・ピー他地域子会社群を統合)
(2022.4)全額出資子会社スキャナー大手PFUをリコーに売却。
(2022.5)富士通セミコンダクターの子会社富士通セミコンダクターメモリソリューションを国内投資ファンド設立子会社へ売却。

amazonとamerican express(AMEX)~創業時からの業態転換は富士通とかくも違う

1995年amazonがオンライン書店からスタートし、様々な難題を克服しながら成長と拡大を繰り返し巨大企業になっていった物語は多くの本やメディアで語られている。
amazonと成長の物語が似ていると思うのはAMEXだ。
社名american expressとあるように元々は運送業者であった。時は南北戦争、銃弾の中、頼まれたお金を命がけで届ける仕事から金融業に派生していく。
どちらも創業時の会社の業種からは想像できないような業態に変わっているが、変化の理由は自然で納得できる。そしてどちらも顧客第一主義だ。
更にどちらもウォーレン・バフェットのお眼鏡にかなった投資先になっている。

業態転換には物語が必要だと思う。
その物語は分かりやすくワクワクできる方が良い。
富士通の歴史はわかりにくくワクワクさせてくれない。何より自社第一主義だ。
歴代社長系譜をみればリストラと事業売却で業態転換していく苦悩の姿が浮き出てくる
メインフレームまで手放すなら全く違う会社になるといってもいいだろう。
IBMとそっくりな歩みではないか。

そうではなく独自のその先の業態転換の物語まで描けたら素晴らしいのに。
現在DX企業への転換を掲げているその先にメタバースなんかがあればいいのにと思う。

アクセンチュアとは何者か~メインフレーム撤退を表明した富士通を待ち受ける大きな壁

アクセンチュアの存在感が国内でもどんどん増している。一体どんな企業なのであろうか。
2001年エンロンの不正会計事件に関与したアーサー・アンダーセン会計事務所と言えば思い起こす方も居るのではないだろうか。
この会社に起源を持ち、1989年コンサルティング部門がアンダーセン・コンサルティングとして分社。
アーサー・アンダーセンと係争を繰り返しながら2000年12月現社名アクセンチュアとして完全分離を果たす。社名変更により奇跡的に翌年のエンロン不正会計事件によるイメージダウンは避けられた。
アーサー・アンダーセンの方は不正会計事件に関与していたとされ2002年には解散してしまった。
社史から分かるように経営コンサルティングが主体であったのが、どのような経緯でデジタルコンサルティングが強くなっていったのかは分からないが今や世界最大のITサービス企業になっている。
そこの物語は何だったのか興味は湧く。
このアクセンチュアも富士通がITサービス事業に軸足を移す上で大きな壁になると思われる。
特に富士通がメインフレーム事業からの撤退表明をしたために、多くの企業がクラウドへの移行を考える時、競合するのはアクセンチュアだ。
こういう多部門のエキスパートが絡むようなITコンサルティングは序盤に述べたように欧米の企業文化はとても巧みだ。

富士通の予想

前編(1)の命題の半分はこうなる。
「富士通はIBMの後を追っているかのようにそっくりだ。」
ただ強力な事業整理とリストラで利益は出してくるだろう。
証券アナリストたちは強気だ。強気目標の株価2万円越えはこれからもあると思う。
それ以上はあまりにも楽観的予測をしない限り難しいと思う。

ジョブ型人事制度が成功し人材が育ち、ITサービス事業への転換がうまくいき競合他社との競争を有利に運ぶ。
DX企業としてメタバースやNFTで強い存在感を示している。

こんな兆候が出てくれば長期保有だろう。
そうでなければ2万円超えで手仕舞いがよい。
他の投資家も同じことを考えている。だからそうしたほうが良いと思う。
では、これから買おうとしている人の買い場はどこらへんなのだろうか。
現在の株価がこれから上がるのか下がるのかは誰も分からない。
富士通の得られる情報と株価推移から、未来への兆候が見えてこないなら、株価低調でこの会社は状況が悪くて買えないと思ったときが買い場だろう。
他の投資家も同じことを考えているのだから。その近辺が底値だ。
ただし、買う勇気があればになる。
間違っても、もうこれ以上下がらないだろうという理由で買ってはならない。

<strong>「独り言です」</strong>
「独り言です」

ジョブ型雇用っていうけど簡単じゃないよ。欧米は必要な仕事のパーツの人材を募集する。その人材はそれしかしない、そして熟練したらステップアップのため転職する。そんな感じになる?
成果主義が流行れば飛びつき失敗し、ジョブ型雇用が流行ると飛びつく。導入は早いけどそれって成果を見せないといけないからとかじゃないよね。すごく懐疑的になってしまう。やり抜いてほしいけどできないと思う。社長在任の時間はそんなには残っていないはずだし。

富士通を買いたい人は出来高をよく見たほうがいいと思う。出来高が大きく増えて株価が下落していくとき機関投資家が売っている。どこが底かは後にならないとわからないけど買う勇気があるならそのタイミングで買うしかないよ。

企業価値が上がるとしたらジョブ型雇用が成功裏に進むことだけど、そういうフィルターで富士通ウォッチングすればニュースや経済誌の記事とかから何か確信が持てる記事があるかもしれない。そんな企業になってほしいよ。

<strong>「2024年2月富士通を売却して独り言です」</strong>
「2024年2月富士通を売却して独り言です」

2月の急速な富士通の上げ相場の中で、ターゲットとして決めていた価格で売却しました。当ブログでも度々述べていますが、上げ相場でしかターゲット価格で売ることはできません。株価は需給で決まるので、この先更に上がるのかどうかは誰にもわかりません。ただ本記事の通り、富士通にこれ以上の未来は見いだせなかったので保有はここまでと決めたわけです。

出典:Yahoo!ファイナンス

前編(1)はこちらから個別株予想に挑む~IBMはamazonになれないのか~そして富士通はIBMかamazonか (1)

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