国策3社の実態~INPEXからRapidusまで~企業統治が未来を決める!~個別株予想に挑む

エンゼルスの監督にかつての名将ロン・ワシントン氏が就任しました。2007年から2014年レンジャーズを率いて’10年と’11年には球団史上初のリーグ優勝を果たし、2年連続でワールドシリーズに進出を果たしています。’12年ダルビッシュ投手がMLBに挑戦し、入団したときの監督です。
その後、契約延長したにも関わらず、’14年シーズン途中で一身上の都合により監督を辞任し、難しい人生を送ってきたであろうロン・ワシントン氏が、チームをまとめることに成功すればエンゼルスは必ず好成績を残すはずです。何故ならチームの統治が変わり、これが企業で言う企業統治だからです。どんなに名選手を揃えても、良い統治なくして好チームは生まれません。

あえて言わせていただきたい。球団は選手ではなく監督だと!!

’23年シーズンのワールドシリーズを思い出して下さい。優勝したレンジャーズを率いたのはボウチー監督68歳。ワールドシリーズを3回制した名将ですが’19年引退しています。’21年に102敗、’22年に94敗していたレンジャーズに請われて復帰し、チームを創設以来初のワールドシリーズ制覇に導いているのです。

以下は、ロン・ワシントン氏がエンゼルスの監督就任会見で、若手選手育成について問われた時のコメントです。「日々、選手に接し野球を理解するように努めるのが私のやり方。毎日、毎日だ。決して、終わりのないプロセスだ。失敗しても、敗北者ではない。野球の中で失敗は、一時的なものだ。その試合でミスをしても翌日取り返すことが出来る。そのメッセージを送り続け、日々練習に取り組む。」(出典:スポーツ報知記事より)熱いコメントで、情熱が燃え続けていたことを覗わせてくれます。

卓球を通しての小考察1

さて、他のスポーツの話もしてみましょう。チームの統治がパフォーマンスにどう影響するかです。いくつかの事例はあります。卓球女子でオリンピック代表を外れた世界上位ランカー伊藤美誠選手は、自分で考えることを優先してコーチを取ることをやめたと言われています。試合中コーチ席に座るお母さんが何も話さず座っている場面を見て違和感を覚えた方も多いと思います。2023年からベンチコーチを置かなくなりました。卓球も個人スポーツですが選手を支えるのは「チーム伊藤美誠」でコーチは戦力の要です。これを置かずして勝つことはできません。コーチの重要性について、早田ひな選手を育てた石田卓球クラブの石田眞行氏が中国の強さを例にコーチングの重要性を的確に指摘しています。「ナショナルチームのスタッフは専任で仕組みができているが、日本は未だに母体と兼任だ」と。早田ひな選手には石田卓球クラブから専属コーチが付いている事実が何を示しているか結果が語っています。

テニスを通しての小考察2

テニスにおいても重要なのはプレイヤーを支えるチームのコーチです。大阪なおみ選手が2018年全米と2019年全豪のメジャータイトルを取ったときのコーチがサーシャ・バジンコーチです。意外にも大坂選手はそれまでに多くのコーチに師事していますが、金銭問題や父親とのトラブルなどで後味の悪いコーチ契約解消が続いていました。サーシャ氏が通算6代目のコーチでした。セリーナ・ウィリアムス選手のヒッティングコーチやキャロライン・ヴォズニアッキ選手のトレーニングコーチを経て大坂なおみ選手と専属コーチ契約を結んでいます。「教えすぎないこと」「答えにたどり着くように導くこと」がコーチングという彼の言葉通り、大坂選手はコートの中で考え全米優勝への答えを掴んだのです。後にサーシャコーチを解任した時、2度とタイトルは取れないと思いました。その後のコーチも解任が続きましたが、2020年多くの世界ランク1位の選手を指導してきて名コーチとして定評あるウィム・フィセッテ氏と契約し再び2020年全米と2021年全豪を取っています。ウィム・フィセッテ氏とは出産のため2022年7月コーチ契約を解消しています。2023年6月からウィム・フィセッテコーチは中国の若手有望選手である鄭欽文選手のチームに入るのですが、復帰した大坂なおみ選手と強引に専属コーチ契約を結びチームを抜けたため遺恨を残しました。出産から復帰した復活途上の大坂選手とのコンビで再びメジャータイトルは取れるでしょうか。今年の全仏2回戦で世界ランク1位のシフォンテク選手をマッチポイントまで追い込んだのは何かを予感させます。因みに、2024年の全豪準決勝は鄭欽文対ヤストレムスカで鄭欽文選手が勝ったのですが、ヤストレムスカ選手のコーチはサーシャ・バジン氏です。更には、ついこの前のイタリア国際4回戦で鄭欽文対大坂なおみ戦が実現しました。苦手のクレーコートということもありますが、鄭欽文選手が勝利した理由に遺恨と意地があったと知っていたら、この試合は非常に興味深かったと思います。

水泳を通しての小考察3

水泳はどうでしょう。2004年アテネ、2008年北京と平泳100m200mでオリンピックを連覇した北島選手の直属コーチは東京スイミングセンターコーチで後の日本代表競泳ヘッドコーチである平井伯昌氏です。2011年東洋大学コーチとなった平井氏は2013年東洋大学水泳部監督になります。東洋大学進学後に門下入りした荻野康介選手、大橋悠依選手は共に金メダルを取っています。反対に、北島選手は平井氏直接指導から離れた2012年ロンドンでは100m5位200m4位に沈みました。日本水泳連盟と指導方針の食い違いから軋轢が表面化している平井氏ですが、2021年東京五輪をもって日本代表競泳ヘッドコーチを退任しています。2024年のパリ五輪ではコーチとして帯同し6大会連続メダルを目指しますが、直接指導している青木玲緒樹選手、松下知之選手など数選手の活躍はあると思いますが、日本チームとしては内紛に近い状況を抱えていて、チーム統治が上手くいっていない現状では成績は間違いなく沈むでしょう。

野球、卓球、テニス、水泳とチーム統治について述べてきましたが、企業統治も全く同じです。良い統治なくして良い結果はなく、故に創業家が力を持っている限り権力争いが生じない創業家統治型企業の優位性はあるのです。当ブログは一貫して創業家統治型企業が最も優れた企業統治であることを主張しています。

<strong>「独り言です」</strong>
「独り言です」

全米女子オープンゴルフ2024で笹生優花選手が優勝、渋野日向子選手が2位となり日本勢のワンツーフィニッシュという快挙を成し遂げたね。だけど、渋野選手の歴代コーチを見てみると面白いことがわかってくる。
2017年青木翔コーチの門下入りした渋野選手は、翌年プロテスト合格、その翌年全英を制した。ところが「自分でやってみる」と青木コーチとの契約を解消しコーチを付けず混迷していったよね。
実は抜け出せない渋野選手は、その後再び青木コーチの門を叩いている。しかし、大きく変わっていたスイングを改造してみたが思ったほどの結果がついてこなかったようだ。

そして今年、上田桃子選手や小祝さくら選手を指導した辻村明志コーチとタッグを組み、磨きがかかったドローボールを打てるスイング改造を行った渋野選手はこの結果を出した。おそらく今後メジャータイトルに絡んでくるはずだよ。

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Rapidusの企業統治

様々な指標や情報はネット上にさらされていて、投資家はそれらを自由に閲覧できます。しかしセンシティブな情報やホットで生の情報は機関投資家にかないません。一般投資が対抗できるのはパフォーマンスを気にせずに長期保有できる事くらいです。しかし、当ブログではもう一つの視点から企業を見ます。公開されている情報から企業統治を推測する事です。企業統治こそ出てくる指標を作り出す源泉です。

目利き~前置き1

1980年代にコンピューターは発展し、いわゆるパソコン全盛時代を迎えます。当時はパソコンのトップメーカーであったIBMに投資し、スティーブ・ジョブス率いるアップルコンピューターにも投資しました。パソコンの心臓部であるCPU(中央演算装置)を制覇しつつあったインテルには投資したかったものの、上昇し続ける株価に、ついに機会を得ず投資できなかった苦い思い出もあります。

時代は巡って現在エヌビディアの時価総額は300兆円だとか。これは、マイクロソフトとアップルに次ぐ世界第3位です。しかし、ソフトバンクがエヌビディアを買ったとき、正直大した会社とも思いませんでした。ゲームなどの画像処理をする会社だろうぐらいの認識だったのです。しかし、現在勃興期にある生成AIを支えるのはGPU(画像処理装置)です。そしてそのGPUの覇者がエヌビディアです。
GPUとCPUの違いと可能性にもっと敏感だったらと、今になって自分の感度の低さと知見のなさを思い知らされます。

時代背景~前置き2

そして今Rapidusです。2022年8月NTTなど日本の大企業8社と創業者株主12名の出資により最先端半導体量産を目指して設立されました。IBMと最先端2nmの半導体生産で技術提携、世界最先端の半導体研究機関ベルギーのimecの協力、半導体生産に欠かせない最重要装置である露光装置の世界最大にして唯一の最先端技術を持つオランダのASMLの協力を得て、最先端半導体技術のキャッチアップ最後のチャンスに挑む会社です。

政治的背景があります。世界最大のファウンドリーメーカー台湾のTSMCは中国侵攻の脅威にさらされ、2位のサムソンは中国に大きく依存しています。米国は忸怩たる思いがあるでしょう。米国半導体産業の下請けだったTSMCと、インテルからCPUを受託生産していたサムソンが共に下剋上を成し遂げて力関係は逆転したからです。
日本メーカーが半導体産業を支配していた頃、その力を削ぐことに腐心していた米国は、時間を逆戻りさせて再び日本に半導体を担わせようとしているのです。

【考察1】過去の国家プロジェクト

Rapidusについては、国産ジェットMRJとダブらせて二の舞いになるだろうと言う見方は根強くあります。MRJと対象的なのがホンダジェットでその違いは間違いなく企業統治の違いでした。MRJが経済産業省の思惑で動いたプロジェクトだということは、失敗までにMRJ社長が6人も交代した事実が物語っています。対して、ホンダジェットの不動のキーマン藤野社長が熱意を持ってやり遂げることが出来たのは、決してプロジェクトの大小ではなく自由に研究を行える企業体質が残っていた頃のホンダの体制だったことは明白です。ホンダから法的に独立した会社である株式会社ホンダ研究所に力があり、破天荒なほど自由に研究ができていた企業統治を持っていた時代の産物がホンダジェットだったのです。

経済産業省が画策してきた企業再編は正直失敗の歴史と言っていいでしょう。エルピーダメモリーは倒産し、ルネサスエレクトロニクスは巨額なM&Aによる借り入れを、国際会計基準(IFRS)への切り替えで棚上げし、経済産業省の投資ファンドとも言える産業革新機構の後継会社INCJは、ルネサス売り抜けに成功しました。2023年11月保有比率はほぼ0になり、同じくして日立とNECも持ち株を全て売却したため、ルネサスは完全に「主なき企業」となったのです。莫大な借り入れとともにです。根無し草となったルネサスは、はっきりとした未来図が描けず放浪するでしょう。

【考察2】Rapidusの出資者たち

Rapidusの企業統治はどうなるのでしょう。2022年8月設立時の出資金73億円はトヨタ、デンソー、ソニーグループ、NTT、ソフトバンク、三菱UFJ、NEC、キオクシアなど8社と個人創業者12名です。経済産業省のすでに決定した3300億円の補助金と’23年度補正予算で確保した6460億円の合計1兆円という巨額出資の代償は株主という形で反映されるのかポストなのか、はっきりと見えてくるのは上場するのではないかと言われている5年から10年後になるのでしょう。このときRapidusは「主なき企業」になっているのか「主ある企業」になっているかです。そしてその「主」が誰なのかこそ核心です。

主要8社と個人創業者どちらが主導権を握るのか、それともタッグを組めるのか。経済産業省が割って入るのか。ことの推移を見ておかなければこの企業の未来の値踏みを間違えます。

【考察3】企業統治はうまくいくのか

現在のRapidusの舵取りは小池淳義社長と東哲郎会長のどちらが行うのでしょうか。東京エレクトロンの社長会長を16年にわたり歴任してきた経営のプロである東会長と、日立製作所のトレセンティテクノロジーズがルネサスに吸収された苦い経験を持つ生粋の技術者小池社長、どちらも登場人物としての経歴は問題ありません。充分な熱量を持った方々です。

海運3社が創ったONEの場合

しかし尚、企業統治の問題は残るのです。誰が経営するのか、ここを見極めることが最も重要で、Rapidusの体制は海運3社が成功したONEのような法的に担保された「所有と経営の分離」ではありません。莫大な資金が必要な以上、資金調達のため必ずやってくる東証上場とともに、誰が経営の主導権を握るのかという問題は突きつけられます。

ホンダジェットを成功させた両輪経営の場合

ホンダジェットを成し遂げた核心的人物藤野氏の熱量を持った研究開発、それを許した本田宗一郎氏が創り上げた本田技研工業株式会社と株式会社ホンダ研究所という両輪が独立した自由な研究ができるホンダイズム、このように明確に裏付けるような企業体制が築けるかです。

LG電子、TSMC、サムソン電子 全て創業家(者)統治企業

創業家の力が無くなり目先の利益しか追わなくなった日本の総合電機メーカーのソニー、松下電器などが次々に撤退していった有機ELテレビを成し遂げたのは、長期的視野で投資を続けた創業家統治企業のLG電子でした。Rapidusの個人創業者たちは創業家統治に変わる仕組みを創り出せるでしょうか。

サムソン電子は言わずとしれた創業家統治企業です。TSMCも創業者の張忠謀(モリス・チャンMorris Chang)氏が2018年まではCEOとして君臨していた創業者統治企業でした。今だ存命しており影響力は残していますが、後任は創業家からではないため、張忠謀氏亡き後の運営は紆余曲折を予想しています。

そしてRapidusは

Rapidusの上場まで見るべきは、キーマンの熱意や経済産業省の支援があるなどの「ふわっとした根拠」ではなく明確に成功を担保するような体制を築けるかどうかを軸に見るべきです。

【考察4】技術的課題は乗り越えられるのか

計画も大胆かつ緻密で意欲的です。TSMCもサムソン電子も未だ量産に至っていない最先端の回路線幅2nmの半導体を2027年に量産しようというのです。生産設備を持たないIBMの技術を習得し量産を実現するまでの計画はスピード感があります。そのために外部の力を借りながら自前主義を捨てました。ベルギーの研究機関imecやオランダのASMLの協力を得て最先端技術の開発を進めています。

技術的蓄積のない日本に一足飛びに2nmの半導体技術を得るのは不可能だという専門家の分析はあります。しかし、やり遂げることが出来るかどうかは執行最高責任者であるCEOの熱意とそれを支える企業統治であることは過去の企業の栄枯盛衰の物語がはっきり示してきたはずです。

極めて間接的ですが、技術的課題のソリューションは企業統治の成否にほかならないということです。非常に夢のある企業であることは間違いありません。しかし、期待と夢で最大限まで膨らんだ国策会社の株価が色褪せた事例を今まで何回見せられたのでしょうか。

INPEXの企業統治

INPEXは日本の石油メジャーではありますが、別記事「日本石油からENEOSホールディングスへ・・・」で指摘した通り大きな経営上の欠点があります。世界的な石油メジャーに迫れたかもしれなかったのに出来なかった訳は、経営トップが全て経済産業省の天下りだということです。

INPEXは確かに国策会社で素晴らしい会社だと思います。経済産業大臣や他の国策系企業が持つ保有株を合計すると支配的持株比率になり、なおかつ拒否権のある黄金株を大臣が持つという稀有な存在で企業買収の懸念などありません。しかし、官僚の経営がいかに企業の発展を妨げるかはアラビア石油の例が顕著に示しています。アラビア太郎と呼ばれた伝説の経営者山下太郎とその後の官僚が経営して辿った道を見ればよく分かります。山下太郎が創設したアラビア石油は、サウジアラビアやクウェートから石油権益を獲得し世界を驚かせました。石油生産が軌道に乗った1970年代最盛期当時は国内経常利益ベスト10企業の常連であり、1974年~1976年と1979年、1980年にはトヨタをも凌いで首位となり、日本一の企業であったアラビア石油は、結局石油メジャーになれず消えてしまいました。

INPEXも経済産業省の天下り先に甘んじたままなら、その呪縛からは逃れられません。高配当もするでしょう。しかし、その利益の大半は産油国への税金と消え、企業の浮沈を賭けた大きな決断をすることもおそらく出来ないでしょう。大きな利権を持っているため、石油&天然ガス市況に株価は左右されます。需給による株価の高騰と下落を繰り返すINPEXで、タイミングが良ければ利益は得れると思いますが、夢がなさすぎるのです。

セグメント別にすると産油国への税金の多さがわかります

JTの企業統治

2022年にJTの企業統治は明確に変わりました。他の国策会社と大きく違うところです。時計を民営化のスタートに戻しましょう。

【考察1】JT民営化への道のり

1985年民営化された日本専売公社は日本たばこ産業株式会社となりました。特別法に基づく特殊会社で3分の1以上の株式は財務大臣が保有しなければならないという規定があるため、現在もJTは財務大臣が37.5%の株式を保有する国策会社で独占企業です。買収の心配はなく社内権力闘争も起こりません。トップは旧大蔵省官僚の天下り先でした。ところが2000年から社長職は旧日本専売公社からの内部昇格人事となり3代続いたあと、2018年には民営化後に入社した寺畠氏がJT出身初の社長となりました。しかし、その間も会長職は旧大蔵省出身の官僚たちがポストを占めていましたが、2022年初めて旧日本専売公社出身者が会長職に就任し、ここに名実ともに民営化されたのです。

【2024年現在の経営陣】

役職氏名出身
取締役会長岩井 睦雄日本専売公社
取締役副会長岡本 薫明財務省
代表取締役社長寺畠 正道日本たばこ産業株式会社
代表取締役副社長中野 恵日本たばこ産業株式会社
代表取締役副社長鳩吉 耕史日本たばこ産業株式会社

付け加えるならば、会長に代表権はなく寺畠社長は自在に大きな決断が出来るでしょう。財務省が影響力を行使する体制ではなく「所有と経営の分離」の効いた大変優れた企業統治下にあると思います。

【考察2】たばこ事業本社機能の海外移転

更に地殻変動は続きます。2022年1月に国内と海外のたばこ事業を一本化し、なんと本社機能をスイスのジュネーブ海外事業本部に一本化してしまいました。寺畠現社長が黒い目をした外国人と言われる所以です。
そしてこの事業体制として担保された「所有と経営の分離」「監督と執行の分離」がしっかり効いた企業組織は、海運3社が創り上げたONEという組織に酷似しています。ONEと同じように本社の干渉や煩雑な国内法、とりわけ財務省の干渉を避け、迅速で自由度の高い決定ができるはずです。グローバルな観点から世界的な資本最適配分が出来る体制は、日本国内産業としてみれば割りを食う場面も多々あると思いますが、企業としては非常に効率的です。斜陽産業と言われているタバコ産業も世界で見れば投資価値のある国もあり、加熱式たばこへの集中投資も出来るので利益は出し続けるでしょう。

【考察3】M&Aと成長

米RJRナビスコの海外たばこ事業や英大手たばこ業者ギャラハーの巨額買収などを経て、M&A戦略が加速していきました。2011年からは国際会計基準(IFRS)に切り替えているため、M&Aで買収した企業の「のれん代」を償却する必要はなく、時価会計の国際会計基準(IFRS)では株価含み益も決算に計上できます。この年から経常利益は大きく上昇していきます。

JTほど評価が割れる企業も少ないのではないでしょうか。タバコの本数は減少トレンドにありながら金額ベースでは成長トレンドです。配当性向80%近くあり、利益の殆どを配当に回しています。これは成長を目指していないことを意味しています。統合報告書のたばこ事業に関するものは7ページに及び読み応え充分です。医薬品事業と食品事業に割かれたページは各々2ページで、惹きつけられるような内容はありませんでした。利益を会社に溜め込まないのはいいのですが、永続性が果たしてあるのかという命題を突きつけます。JTの最大の課題は世界戦略が描けるたばこ事業以外の成長ドライブがないということです。

医薬品事業について

JTの医薬品事業は低分子医薬品の研究開発で導出ビジネスです。鳥居薬品が製造販売を担当し、ロシュ、メルク、GSKなどの世界的医薬品メーカーにも導出しています。しかし、最近の新薬開発主流は高分子医薬品(バイオ医薬品)であり低分子医薬品はターゲットが枯渇しフェーズ2やフェーズ3でも断念するケースが多発しています。現にJTが開発していた脂質異常症治療薬や骨粗鬆症治療薬は開発中止に追い込まれています。そこに製薬業界の難しさがあります。更に高分子医薬品の開発には低分子医薬品よりコストが大幅に掛かります。8割も配当しているJTが、たばこ事業に代わる柱に育てようとするにはパワー不足としか思えないのです。「スタリビルド」や「メキニスト」などのスマッシュヒットの医薬品は今後も生み出すかもしれませんが、大型新薬が生み出せるほど昨今の新薬開発事情は簡単ではないのです。

経済産業省HPより:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/bio/pdf/003_08_00.pdf
経済産業省HP:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/hyoka_wg/pdf/062_h02_00.pdf

【考察4】売買タイミング

大きく株価が上がった今、買いタイミングはどうなのか別記事掲載のPER上昇倍率でみてみます。
下の株価チャート図をご覧ください。2022年3月の起点をスタートとすると現在の株価のPERの1.74倍です。を起点としても1.50倍と2.0倍に近づいている株価はここから買うには警戒領域と言わざるを得ないのです。

たばこ事業で世界戦略が描けるJTは、企業統治が後戻りしないのなら急落しないと思います。旨味のある買い場はPER上昇倍率1.30倍の3000円近辺かと思います。矛盾しますが株価変動要因は需給です。何らかの悪材料や環境悪化を捉えて下落を待つのが得策です。忍耐強く年単位で待てるなら必ずその局面はやってきます。ただ下がったときに遭遇できたとして、殆どの方は更なる下落を恐れて買うことが出来ないのです。

それにしても、2022年1月のたばこ事業本社機能の海外移転を捉えた投資をした機関投資家や個人投資家は見事としか言いようがありません。

※記事内の予想は、あくまで個人的見解を示したもので、投資を勧誘や推奨するものではありません。
過去の実績や未来の予想は投資成果を保証するものではありません。
推奨や非推奨は、購入や売却を勧めるものではなく個人的見解に過ぎません。
投資の判断は皆様ご自身の決定にてお願い致します。

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