30年前に飲んだ「モルツ」の記憶が蘇る~「ザ・モルツ」はプレミアムモルツより美味しい!
缶と瓶どちらが美味しいかとよく話題になります。大体の結論は「中身は同じ」「気分の問題」というのが多いでしょうか。
缶と瓶の問題への見解です
代表的輸入ビールで試してみた
缶と瓶は味が違います。アサヒはアンハイザー・ブッシュ・インベブより中東欧のビール事業とイタリア「ペローニ」チェコ「ピルスナーウルケル」などを買収しています。「ピルスナーウルケル」をスーパーでよく見るのはそのためです。スーパーにおいているのは「ピルスナーウルケル缶」ですが、輸入も扱っているお酒の専門チェーン店などは「ピルスナーウルケル瓶」を置いています。飲み比べると雲泥の差で圧倒的に瓶が美味しいです。
考えられる要素
これは長い距離を移動するので保管方法に誘因があり際立つのだろうと思っています。缶は温度変化に弱いです。温度変化があると香味変化が早まります。一定の温度に保つことが品質を安定させます。破損の心配が少ないので縦横関係なく積まれ、衝撃による炭酸ガスの発生は味に悪影響を与えます。よく贈答用に缶のケースを買って凹みが有ったりするのは取り扱いが雑だからだと推察します。
一方瓶は缶ほどダイレクトに温度変化の影響を受けないのと、縦置きのまま移動しますし、破損の心配があるので慎重に扱われます。このような長距離で長時間を要する輸入ビールは、特に瓶缶の差が顕著に現れると思います。
紫外線の問題もあります。紫外線に当たると苦味成分が分解し他の成分と化合し日光臭と呼ばれるものを作ります。確かに缶は紫外線を通さないように作られています。瓶は紫外線を通しにくいですが通します。しかし丁寧に扱われる瓶ビールを1時間も日に当たる場所に置くようなことはありません。私はこの品質に及ぼす影響はほぼイーブンだと思います。
製法は完全に瓶有利です。ビール充填過程で空気はほぼ混入しません。缶はどうしても混入します。空気中の酸素は活性酸素となり品質劣化を起こします。「ピルスナーウルケル缶」はそのような状態で過酷な輸送条件を経て輸入されます。味の違いは大きいはずです。日本のビールでも「一番搾り」は瓶缶の差があまりありませんでした。恐らくかなり高価な缶充填装置で空気混入をシャットアウトしているはずです。
もちろん保管が悪ければ瓶も美味しくありません。今回の試飲は全て瓶ビールとなっています。
ザ・モルツ | プレミアムモルツ | エビスビール | 一番搾り | アサヒ | |
推奨度 | |||||
酸素除去 |
サントリー【ザ・モルツ】
瓶で入手しよう
ザ・モルツの存在すら知らない方も多くなってしまいました。そして瓶となるともはや通常では入手不可能かもしれません。サントリー顧客サービスセンターのような部署に、お住いの地域近辺で扱っている酒販店をお聞き下さい。教えてくれます。量販店などに注文してもいいのですがケース単位となり現実的ではありません。取り扱っている酒販店でも、大瓶はケース単位の注文ですが中瓶は違うようです。中瓶を希望本数買える酒販店となるとサントリーに聞いたほうが早いです。そしてザ・モルツになると製造から間もない新鮮なものが飲める可能性が高いです。
チェコ産の上質なダイヤモンド麦芽を使用しています。このように素材を生かしたビールは繊細で缶で何回かの温度変化を経ると劣化します。是非瓶で飲んでみて下さい。それと冷蔵庫で保管する場合は縦置きです。それと、2015年モルツはザ・モルツにリニューアルされています。
追伸:最近ザ・モルツ缶の販売が中止になったと記事が出ていました。販売不振とのことでしたが宣伝されていないので当然かも知れません。個人的には瓶缶問題も大いにあると思っています。
基本情報とスペック
【スペック】
利根川ビール工場 (群馬県 邑楽郡千代田町)
ザ・モルツ
ラガー(下面発酵) タイプ:非熱処理・天然水仕込み(赤城山水系の水使用)
材料:麦芽(外国製造又は国内製造)、ホップ
500ml Alc.5.0%
IBU(苦味)21 SRM(色の濃さ)6
【基本情報】
深いコクのチェコ及び周辺地域の上質ダイヤモンド麦芽を一部使用し、サントリー独自のHHS製法(High temperature High pressur Stream高温高圧蒸気で加工した麦芽を使用する後味の爽快な製法)と赤城山水系の天然水をUMAMI製法と名付ける発酵制御技術でコクと旨味と爽快さをバランスよく仕上げています。
試飲4.5(推奨度合い)
【瓶ビール中瓶500mlで試飲】
プレミアムモルツより苦味と旨味の主張がはっきりしていて芳醇にして滑らかに感じます。プレミアムモルツと比べると「動」がザ・モルツで「静」がプレモルでしょうか。プレモルは確かに素材は良いのは分かります。重厚で落ち着いていて「どうだ文句ないだろう」という生真面目さを感じてしまうのです。一方ザ・モルツは、表ラベルに「UMAMI」、裏ラベルに「グッとくる’うまみ’の麦芽100%ビール」と印字してあるのが納得できる、滑らかであまりにも濃厚な喉越しと味わいです。荒削りですが主張があり材料なのか製法なのか、私はプレミアムモルツよりザ・モルツのほうが美味しかったのです。
瓶缶問題3.0(ビール充填時の空気排除)
【ビールの缶充填情報】
缶充填ラインにAIを活用した異常予兆検知システムを導入し電流値や電圧値など1500のセンサーの関係性の変化を検出します。
製造ラインの周囲をカバーで覆い異物混入を防いだり、缶内面検査を行う機械を導入しており汚れ、歪み、異物のチェックとラインからの缶の排除を行っています。
【総括】
これらの内容から読み取れるのは、ラインの正常な稼働と異物混入などの排除で清潔な飲料を提供しようということに主眼が置かれていることです。もちろん充填時の缶内の空気の排除はしているのでしょうが出ている情報としては表記はありませんでした。
サントリー【プレミアムモルツ】
基本情報とスペック
【スペック】
利根川ビール工場 (群馬県 邑楽郡千代田町)
ザ・モルツ
ピルスナースタイル(下面発酵) タイプ:非熱処理・天然水仕込み(赤城山水系の水使用)
材料:麦芽(外国製造又は国内製造)、ホップ(チェコ産アロマホップ使用)
500ml Alc.5.5%
IBU(苦味)21 SRM(色の濃さ)6
【基本情報】
深いコクのチェコ及び周辺地域の上質ダイヤモンド麦芽を一部使用し総麦芽量はザ・モルツの1.2倍使用、ホップはチェコ産アロマホップを通常使用量の2倍使いアロマリッチホッピング製法という独自の製法で仕上げています。麦芽煮出しを2回行うダブルデコクション製法とザ・モルツと同じ赤城山水系の天然水を使用しています。贅沢に上質の材料をふんだんに使ったビールです。
試飲4.0(推奨度合い)
【瓶ビール中瓶500mlで試飲】
苦味は強くありません。品質は極めてきちんとしていて作り込まれているのがわかります。スッキリと入ってくるが何故か面白みがないのです、と言うか予想の範囲内の味で驚きがないのです。麦芽100%ではないコーンスターチなどが入っている他の国産ビールと比べると、確かに上質な品質を感じますしとても安定を感じる味です。それが逆にトップブラントになれない理由かもしれません。宣伝は全くしていないザ・モルツの予想外にインパクトのある旨味の驚きを前に、何故ザ・モルツを宣伝しない戦略なのか分からなくなります。
ついでに申し上げておきますと、プレミアムモルツには更に上のランクのマスターズドリームというブランドがあります。ダイアモンド麦芽使用にトリプルデコクション製法と、これでもかというくらい材料と製法をアピールしています。でも飲んだ方は「あれっ、宣伝文句に味が比例していないかな」なんて思わなかったでしょうか。確かに「どうだ文句ないだろう」という材料の良さは感じます。でも驚くほどではないし毎日も飲めないのです。
プレミアムモルツのブランドはチェコのピルスナータイプを目指しているようです。世界一のビール大国チェコ国営醸造所製造のブデヨビツキ ブドバーを飲んでみて下さい。最近はイオンのお酒専門コーナーなどで見かけます。ピルスナーの最高峰ブランドの一つですがさりげない味でとても美味しいですよ。
瓶缶問題3.0(ビール充填時の空気排除)
これはザ・モルツと同じになります。
サッポロ【ヱビスビール】
基本情報とスペック
【スペック】
九州日田工場 (大分県日田市大字高瀬6979)
ヱビスビール YEBISU BEER
ラガー(下面発酵) タイプ:非熱処理 ジャーマンピルスナー
材料:麦芽(外国製造又は国内製造(5%未満))、ホップ(バイエルン産アロマホップ使用)
500ml Alc.5.0%
IBU(苦味)25 SRM(色の濃さ)4
【基本情報】
通常のビールの1.5倍の期間をかけて麦芽を長期熟成させています。酵母はヱビス専用で香りを出す能力が高いものを使用しており芳醇な香りを出します。ホップは香りの強いバイエルン産アロマホップを使用しています。
試飲4.0(推奨度合い)
【瓶ビール中瓶500mlで試飲】
このビールは特徴があります。コクが有り滑らかですが、なんだろう苦味の中に独特の尖ったものを感じてしまいます。ヱビス酵母なのでしょうか。それともバイエルン産アロマホップの影響なのでしょうか。万人受けではないビールと思いますが、麦芽100%の品質の良さは基礎にあり美味しいです。ただ、非常に好みの分かれるビールだと思います。ジャーマンピルスナーなのでピルスナーほど軽くないです。
瓶缶問題5.0(ビール充填時の空気排除)
【ビールの缶充填情報】
ビールの品質劣化についてサッポロは圧倒的に表記が多く、ビール中に微量に存在する酸素分子が活性酸素となり、ビール中の様々な成分が参加されることにより品質劣化が起こると明記しています。そのためビールを充填する工程は専用の充填室で酸素をシャットアウトして行っています。
瓶ビールの充填は、瓶内の空気を炭酸ガスに置換し加圧状態にして充填し、充填後は液面を刺激し泡立たせ瓶内から酸素を追い出し王冠を打栓すると徹底した管理を行っています。
缶ビールの充填は、缶の検査洗浄後すぐに行われます。ビールが注入されると炭酸ガスを吹きかけて瞬時にフタを巻き締めます。
【総括】
客観的に評価して、瓶のほうが酸素追い出しはより完全に近いと推察します。最も詳細に記載があったのはサッポロで、酸素の排除を重視しているのが読み取れます。
キリン【一番搾り】
基本情報とスペック
【スペック】
福岡県朝倉市馬田 キリンビール福岡工場
一番搾り 麦芽100%外国製造又は国内製造(5%未満)
ラガー(下面発酵) タイプ:非熱処理
自然に流れ出る麦汁のみ使用。通常のビールの1.5倍の麦使用。
2009年から麦芽100%化。
633ml Alc.5.0% IBU(苦味)21 SRM(色の濃さ)4黄金色(ペールゴールド)
【基本情報】
麦芽は外国製造又は国内製造(5%未満)とラベルに記載があるのでほぼ外国産の麦芽を使用していることになります。そして最大の売り一番搾り麦汁のみを使用しています。通常の1.5倍の麦芽を使用しています。
日本のビールブランドとしては初めてドイツで委託生産しています。ドイツでは麦芽とホップ以外の副原料を使ったビールは製造できません。
試飲5.0(推奨度合い)
【瓶ビール500mlで試飲】
ほのかな苦味とすっと入ってくる呑み口で非常に飲みやすい、とても美味しいビールです。
麦芽100%の素材の良さを感じます。喉越しで飲む方には物足りないかもしれません。
ザ・モルツと並んで美味しいビールですが方向性が違うと思います。とても洗練された高級品の味わいの美味しさというべきか。ザ・モルツの「動」と比較するとしたら繊細の「繊」でしょうか。
2023年に通算7度目のリニューアルをしたと記事に出ていました。この試飲はリニューアル前になります。
瓶缶問題4.0(ビール充填時の空気排除)
【ビールの缶充填情報】
缶は空気の力で少し浮かせながら衝撃を最低限にするよう移動していきます。フィラーと呼ばれる機械により缶の側面を這わせながら空気が入らないように充填し素早く蓋をします。
【総括】
衝撃と空気が入らないよう充填には気を使っているようですが、蓋を締める最終工程は酸素排除のとくに手のこんだことをしている記載はありませんでした。
アサヒビールの缶充填情報
アサヒビールについても缶へのビール充填情報を掲載しておきたいと思います。
因みに、スッキリさせるために麦芽70%で副原料に米、コーン、スターチを使用しているスーパードライはIBU(苦味)16です。
瓶缶問題3.0(ビール充填時の空気排除)
【ビールの缶充填情報】
ビールを缶・びんに入れる工程は、クリーンルームという工場の中でも特に清浄度の高いエリアで行います。作業者が入る際も、持込制限に加え専用の作業着・手袋・マスク・長靴を着用の上、殺菌・エアシャワーで菌・ホコリの持ち込みを防止します。
【総括】
以上のような表記と、リンサーで内部を洗浄、様々な機器で異物混入や印字、量のチェックと言った記載はありますがそれ以上のことは書いていませんでした。清潔で正確な商品を目指していると読み取れます。
試飲を終えて
代表的な国内麦芽100%ビールを4銘柄飲み比べてみました。やはり副原料を使っていないこれらのビールはとても上質で美味しいです。美味しいビールを飲むとすると、やはり瓶に軍配が上がると思います。かと言って、手軽な缶は捨てがたく、味の劣化がより少なくなるよう更なる缶の進化を期待する限りです。