「ネットワーク分離とは何か、なんとなく分かるが方式の違いまで説明できない」という情シス担当者の方は多いのではないでしょうか。情報漏えい対策として長く使われてきた考え方ですが、物理分離・論理分離・画面転送方式など複数のやり方があり、それぞれセキュリティ強度も運用の手間も異なります。この記事では、ネットワーク分離とは何かという基礎から、代表的な方式の違い、導入すると必ず発生するデメリット、そしてゼロトラストへの流れまで整理します。
ネットワーク分離とは?(基礎知識)
ネットワーク分離の意味
ネットワーク分離とは、業務システムやインターネットなど、性質やリスクの異なるネットワークを互いに切り離し、直接通信できないようにする対策のことです。分離することで、片方のネットワークがマルウェアに感染しても、もう片方(機密情報を扱う側)への被害の拡大を防ぎます。
一般には「インターネットに接続する環境」と「重要な情報資産を扱う環境」を分ける構成を指します。両者の間の情報のやり取りは、限定された安全な経路だけに絞ります。
なぜ分離するのか(目的)
ネットワーク分離の目的は、大きく次の2つです。
- 情報漏えいの防止: 機密情報を扱う端末をインターネットから切り離せば、外部への不正な送信経路そのものをなくせます
- マルウェア被害の局所化: 標的型攻撃のメールなどで1台が感染しても、分離境界を越えられなければ被害はインターネット側に留まります
「入口・出口で防ぐ」対策に加えて、「万一入られても広がらせない」という多層防御の一角を担うのがネットワーク分離です。
三層分離との関係
自治体でよく聞く「三層分離」は、このネットワーク分離を制度として具体化したものです。マイナンバー利用事務系・LGWAN接続系・インターネット接続系の3つに分ける、自治体向けの標準的なモデルを指します。つまり、ネットワーク分離という一般的な考え方があり、その自治体向けの実装例が三層分離、という関係です。詳細は三層分離とは?αモデル・βモデルの違いをわかりやすく解説で解説しています。
ネットワーク分離の方式(具体例)
物理分離
業務用とインターネット用で、端末・配線・機器をすべて別々に用意する方式です。「隣の島のPCはインターネット、自席のPCは基幹システム専用」というように、物理的に線がつながっていません。分離の強度は最も高い一方、端末を2台持つコストや設置スペース、運用の二重化という負担が大きくなります。
論理分離(VLAN・ファイアウォール)
1つの物理ネットワーク上で、VLAN(仮想的なネットワークの区切り)やファイアウォールを使って通信を制御し、論理的に分離する方式です。物理分離よりコストを抑えられますが、機器の設定ミスや脆弱性で分離が破られる余地があり、設計と運用の質に強度が左右されます。
1本の物理的なスイッチやケーブルを、複数の独立したネットワークがあるかのように論理的に区切る技術です。同じスイッチにつながっていても、別VLAN同士は直接通信できません。
画面転送方式(VDI・SBC)
分離したい側の環境を、サーバー上の仮想デスクトップ(VDI)やリモートデスクトップ(SBC)として動かします。手元の端末とは「画面の映像」と「キーボード・マウス操作」だけをやり取りする方式です。実データは手元に降りてこないため、感染した端末から情報を持ち出されにくくなります。近年の主流ですが、サーバー投資と回線帯域が必要で、レスポンスの遅さが業務効率に響くことがあります。
一方向通信(データダイオード)
物理的に片方向にしかデータが流れない装置を使い、「重要系からインターネット系へは出せるが、逆は不可」といった通信だけを許す方式です。制御システムなど、極めて高いセキュリティが求められる場面で使われます。
方式の比較イメージ
数値は傾向を示すためのイメージです。実際には製品や設計、既存環境によって評価は変わります。共通して言えるのは「分離の強度を上げるほど、利便性とコスト面で不利になりやすい」というトレードオフがある点です。
ネットワーク分離のメリット・デメリット
メリット
- 情報漏えいの経路を物理的・論理的に断てる: 特に物理分離や一方向通信は、外部送信の手段そのものをなくせます
- マルウェア感染時の被害を限定できる: 分離境界がインシデントの拡大を食い止めます
- 監査・説明がしやすい: 「重要系はインターネットに出ていない」と明確に説明できるため、規程や監査対応の観点で有利です
デメリット(運用負荷・コスト・業務効率の低下)

実際に分離環境で運用してみると、ネット側の手順書を分離側へ持ち込むだけで無害化サーバー経由で数分待たされ、地味にストレスでした。慣れるまでは効率が落ちます。
- 二重の運用コスト: 端末・ライセンス・パッチ管理・ヘルプデスクが実質2系統になります
- ファイル受け渡しの手間: 分離境界をまたぐたびに、無害化(サニタイズ)処理やファイル授受システムを通す必要があり、時間がかかります
- 利便性の低下による抜け道: 不便さから私物USBメモリや個人メールを使う「シャドーIT」が生まれ、かえってリスクが上がる。分離の運用でよくある失敗です
- 完全な分離は難しい: 業務上どうしても境界を越える通信が必要になり、そこが新たな弱点になりがちです
ネットワーク分離の今後(ゼロトラストとの関係)
ネットワーク分離は今後どうなっていくのでしょうか。
近年は、クラウド利用やテレワークの拡大で「社内は安全、社外は危険」という前提が崩れ、境界での分離だけでは守りきれない場面が増えています。そこで注目されているのが、通信のたびに利用者・端末・状態を検証する「ゼロトラスト」の考え方です。
ゼロトラストはネットワーク分離を完全に置き換えるものではありません。重要系は分離を維持しつつ、それ以外は認証・端末管理・ログ監視で守る、という組み合わせで移行が進んでいます。自治体の三層分離でも、インターネット接続系を中心にゼロトラスト型の見直しが議論されています。
現実的な移行では、まず利用者の負担が大きいわりに機密度の低い領域から分離をゆるめます。インターネット閲覧やクラウド利用がこれにあたり、多要素認証・デバイス証明書・条件付きアクセス・ログ監視で代替します。そのうえで、財務・人事・個人情報など本当に守るべきデータを扱う範囲は分離を残す、という二段構えにすると、利便性を取り戻しつつ守りの要は崩さずに済みます。「分離かゼロトラストか」の二択ではなく、「どこを分離で守り、どこをゼロトラストに寄せるか」という設計の問題だと捉えるのが実務的です。
よくある質問(FAQ)
ネットワーク分離とネットワーク冗長化は違うものですか?
まったく別の目的です。分離はセキュリティ対策で、リスクの異なるネットワークを切り離すこと。冗長化は可用性対策で、機器や回線を二重化して障害時も通信を続けられるようにすることです。詳しくは[ネットワーク冗長化とは?種類と方法をわかりやすく解説](https://robustaf.com/engineer/infra/network-jouchouka-toha/)をご覧ください。論理分離(VLAN)だけでは不十分ですか?
要件によります。VLANやファイアウォールによる論理分離はコストを抑えられますが、設定ミスや機器の脆弱性で分離が破られる余地があります。極めて高い機密性が求められる環境では物理分離や画面転送方式が選ばれ、一般的な業務系では論理分離+認証・監視の組み合わせが現実的です。画面転送方式(VDI)にすれば分離は万全ですか?
万全ではありません。実データが手元に降りない点は強力ですが、クリップボード連携やファイル持ち出しの設定を緩めると穴になります。VDIサーバー自体の管理や、認証情報の窃取にも注意が必要です。ネットワーク分離をやめてゼロトラストに全面移行できますか?
重要系(制御システムや極めて機密性の高い情報系)は分離を残すのが一般的で、全面的な置き換えは慎重に検討されます。まずインターネット接続系など影響の小さい範囲からゼロトラスト型に見直し、段階的に進めるケースが多いです。中小企業でもネットワーク分離は必要ですか?
扱う情報の重要度で判断します。個人情報や取引先の機密を大量に保有する場合は、少なくとも業務系と来客用Wi-Fiの分離、重要サーバーのセグメント分離といった論理分離から検討する価値があります。いきなり物理分離まで行う必要はありません。分離環境でファイルをやり取りするにはどうすればよいですか?
一般的には、ファイル授受専用のシステムを境界に置き、マクロ除去やパスワード付きZIPの検査といった無害化(サニタイズ)処理を通してから受け渡します。私物USBメモリや個人メールでの持ち出しは、分離の意味をなくすうえに情報漏えいの温床になるため、運用ルールで明確に禁止する必要があります。クラウドサービスを使う場合、ネットワーク分離とどう両立させますか?
インターネット接続系からクラウドを使う構成が基本です。重要系から直接クラウドへ出す必要がある場合もあります。その際は通信先を特定サービスのIPやドメインに限定し、監視用のプロキシを経由させるなど、例外を最小限に絞って管理します。例外が増えるほど分離の効果は薄れます。まとめ
ネットワーク分離とは、リスクの異なるネットワークを切り離し、情報漏えいやマルウェア被害の拡大を防ぐセキュリティ対策です。物理分離・論理分離・画面転送方式・一方向通信と方式があり、強度を上げるほど利便性とコストで不利になるトレードオフがあります。導入時は運用の二重化やファイル受け渡しの手間、それによるシャドーITのリスクまで見込んで設計することが重要です。今後は重要系の分離を維持しつつ、それ以外をゼロトラストで守る組み合わせが主流になっていくと考えられます。関連してフィッシング対策とは?個人と企業別に解説もあわせてご覧ください。
