農業を救う「デジタル農業」「遺伝子組み換えとゲノム編集」「環境技術」の3つのキーワードで未来を予測する!
1.前編~悪魔の種子を防げるか~種子を制するものが世界を制すのか(前編)~個別株予想に挑む
2中編~住友化学は和製バイオメジャーか~種子を制するものが世界を制すのか(中編)~個別株予想に挑む
「種子を制するものは世界を制する」この有名な言葉に導かれ、日本のバイオメジャーと種子メジャーの可能性を探ってきました。期せずして後編までの3編構成となってしまいました。
最終編では「サカタのタネ」などの種子メジャーへの可能性を探ろうと思いましたが、調べる限りその目はなさそうです。日本の農業に危機感を抱いてのここまででしたので、主旨はブレずに対象を変えて最終編としたいと思います。
EBPMから示唆されること~世界のデジタル農業は日本のスマート農業と違う
霞が関の政策立案EBPMの核心=(イコール)教育のデジタル化
EBPM(Evidence Based Policy Making)とは、「証拠に基づく政策立案」のことで、日本では内閣官房において次のように定義されています。①政策目的を明確化させ②その目的のため効果的な政策はなにかデータ等の証拠を集め、政策の基本的な枠組みを明確にする取り組み。
これまでの「大きな声」や「身近な声」に強く影響を受けていた政策立案では偏りが生まれ、民意や社会の状況をきめ細かく反映していない可能性を常にはらんでいたため、今非常に注目されていて各省庁が積極的に取り組んでいる考え方です。
と言われてもどうするのか今ひとつピンときませんよね。もちろん霞が関のキャリアの方たちは理解し実践しているのですが、それでも正しく実践できているのか本音では雲をつかんでいるかのように感じているのかもしれません。時の人、成田悠輔氏にシンポジウムで講演を依頼していてそのプレゼンが官僚たちにどよめきをもって受け留められました。
You Tubeにも出ていますのでご覧になって下さい。その中で成田氏は教育論の中で生徒一人にタブレットPCを1つ持たせる意味合いとして、紙の教科書がデジタルになるということにあまり意味を見出していなくて、まさにこれにより💡生徒一人々がどこで躓いてどこでwebをググったかのデータ収集にあると看破していました。そしてこのデータ化こそがデジタル教育の目的であり、EBPMに置き換えれば核心だといいます。国民たちが何を必要としているか何を調べたか克明にデジタル化ができればEBPM自体は余り重要ではないと核心に迫ってきます。何だか民意を知りそれを制御すると言う民主的と逆の意味では中国がEBPM(証拠に基づく政策立案)を利用することにおいて世界一長けているかもしれませんね。
この説得力のあるプレゼンが意味する💡ビックデータの価値観の違いこそ、欧米のデジタル精密農業と日本のスマート農業の方向性の違いで、優劣は明白です。差が付けば致命的で農業の川上から川中まで押さえられてしまうでしょう。優劣を明確にしていきましょう。
バイオメジャーのデジタル農業と日本のスマート農業の違い
最近、有名な経済誌が農業に関する特集を貼っていました。40ページに及ぶ特集でデータ編も入れると55ページと大変な力の入れようです。もちろん内容は充実しているわけですが、💡出てくる企業は川下の企業ばかりで、バイオメジャーも種子メジャーも存在しない日本では、川上に位置する企業は当然ながら出てきません。世界の農業はデシタル農業です。日本のスマート農業とは少し違います。
デジタル農業は膨大なデータをデジタル化したものから導き出されたソリューションですが、スマート農業はロボット、ICT、AIを使った農業ツールです。教育で例えると、一人1台のPC政策で利便性を追求するスマート化とPCから集められたデータのデジタル化を目的とするデジタル教育が違うように方向性が違います。💡バイオメジャーたちにとって農業にかかわるデータ、作物の収穫、肥料の使用、輪作,降雨など全てのデータが欲しくてたまらないデータでありいわば新しい通貨なのです。デジタル化された農業データはまさに「デジタル通貨」といってよい価値を持つ存在なのです。
前編で独バイエルが米モンサントを買収した訳として、モンサントのGM(遺伝子組換え)種子技術とクライメートコープ(Climate corp.)のデジタル農業技術がどうしても欲しかったからだと述べました。現在日本では独BASFがJA全農とAI・衛星データサービス「ザルビオフィールドマネージャー」というデジタル農業DXツールを展開しています。日本の農業のスマート化とは違って見えます。どう違うのか探っていきたいと思います。
日本の衛星データサービスの実力
Sagri
日本ではサグリという会社が衛星データサービス「Sagri」を提供しています。
あい作
隠れた農業プラットフォーマーはNTTです。NTTデータの準天頂衛星みちびきを使った営農支援プラットフォーム「あい作」は、AI技術を用いた追肥時期の判断、AIによる病害虫・雑草の同定、みちびき対応ドローンによる肥料・農薬散布、水田水位センサーの利用など一定レベルにあるシステムですが、💡あくまで管理と記録による便利なツールを目指しているにすぎません。また農家に充分浸透できていないのも事実です。世界のバイオメジャーたちがデジタル化した農業データを新しい通貨のように価値あるデシタル通貨とみなして収集しているのに対し、農業データを集めて便利なツールを作り出そうとする日本のコンセプトとの違いは大きいのです。💡IT通信企業であるNTTが農業で世界に存在感を示せるとしたらスピンアウトして新会社を作るしかないでしょう。ダウ・デュポンがコルテバを生み出したように。目指すところの違いは、ザルビオとあい作のYou Tube動画を比較したらよく分かります。
【隠れた農業プラットフォーマーNTTの組織】
大きな潜在力を持っていますが組織は多岐にまたがり混沌としているように見えます。
クボタの営農支援システムKSAS
日本で最も普及している農業支援システムは、農機具メーカークボタのKSAS営農支援システムです。もちろん農家から支持されているだけに一定レベルに達しているのですが、クボタは農業における川上に位置する企業ではありません。農機メーカーなのです。データ収集も農機のGPSがキーになっており、このシステムはあくまで営農管理が目的のツールで、バイオメジャーたちの衛星データとAIを活用した予測システムとは目指すものが違うのです。そして何よりもその違いの先に💡農業の川上産業であるバイオメジャーたちがビックデータを手にすると川上から川中まで完全に押さえられる恐ろしさがあるのです。
農機事業についてのクボタの企業分析
クボタ農機事業についての大まかな理解は、一時期GPS付きトラクターやコンバインで席巻した中国事業は行き詰まり、米国には世界最大の農機メーカー ディア・アンド・カンパニーがいてデジタル農業でバイエルのクライメート・フィールドビューと連携して動く精密農業でクボタの遥か先を行って食い込むのは困難だということです。クボタ自身もAIとロボティクスでは充分に対応できていないことは認めています。当ブログの企業判断材料である企業統治でも、創業家は既にはるか昔に経営から遠ざかっており、そういう意味では特に見るべきものもない通常の企業です。農機事業の伸びしろは限られているという理解です。
環境技術の最先端クライメート・フィールドビュー
精密農業クライメートフィールドビューに触れてみよう
世界最大の種苗・種子メーカーのバイエルがモンサントを買収して欲しくてたまらなかったクライメートコーポレーションのクライメート・フィールドビュー(精密農業)を手に入れました。BASFのザルビオフィールドマネージャーより先を行くデジタル農業の最先端です。日本では展開していないため英語版ですがご紹介いたします(右下設定→字幕→英語→英語→自動翻訳→日本語(下の方にあり)でとうぞ)。
進化するクライメートフィールドビュー
クライメートコープはモンサントの傘下に入り持ち前のビックデータを利用した環境分析手法に加え、農家の手書きのデータなど蔵に眠っていたデータに歴史的価値のある収蔵品と同じような価値を見出し、全てを集めデジタル化しました。こうしたデータをソフトウエアで解析し収益を最大化する種子、肥料、農薬の組み合わせを予測し農家に助言したのです。それに対して対価を定期的に受け取りました。現在もクライメートフィールドビューにより農家から得られるリアルタイムのデータをデジタル化し、最適解を求める精密農業を目指し進化し続けているのです。
クライメートコープをモンサントが買収するまで
クライメートコープの創業は2006年グーグル出身者により設立されたベンチャー企業でした。全米250万箇所の気象観測データと1500億箇所の土壌観察データを組み合わせ10兆にも登る気象シュミレーションポイントを生成する技術を確立し、農家向けの保険価格設定やリスク算定を行っていました。💡2013年にモンサントがビックデータを活用するこの技術にまた別の価値を見出し、10億ドルを超える金額で買収したのです。モンサントは農業の次のステージのため強い意志で投資しました。日本の企業ならこのようなスタートアップ企業に10億ドルもの投資を行う決断ができたでしょうか。日本企業でこのような巨額投資が決断できるとすれば、当ブログの一貫した指針である最も優れた企業統治形態である「所有と経営の分離」の統治形態を持つ会社しかないでしょう。
モンサントは買収に際し人材流出を防ぐため多額のコストを払い、経営陣にそのまま経営を任せました。9億3000万ドルで企業買収し従業員引き留めの優遇策で1億ドルを上積みしました。「所有と経営の分離」の統治形態を体現したクライメートコープ社はその後両社に大きな恩恵をもたらしたのです。
遺伝子組み換え作物とゲノム編集は根付くのか
これについては前編と中編の中で幾度かいろいろな角度の中で取り上げてきました。これが人口100億人を超えるラインに向かって進んでいる今の世界で必要なのか、何をもたらすのか未だに議論の最中です。
【ガイドRNAと複合体を形成したタンパク質CAS9がDNAの二重らせん構造をほどき二対のうちの一対と結合し二本鎖を切断しようとしているイメージ図です。】
遺伝子組み換えやゲノム編集の正しい理解はできるのか
・遺伝子組換えとゲノム編集の違いと正しい理解
・ノーベル賞を取った技術CRISPR-CAS9(クリスパーキャス9)
・除草剤ラウンドアップの主成分グリホサートの発がん性の議論
とは、これらの考察を前編と中編で取り上げてきました。
遺伝子組換え食物は既に食品表示義務がないものや家畜飼料として直接間接的に既に入っています。正しく理解すると同時に、この種の議論は常に袋小路に入ってしまうこともグリホサートの議論でお示ししました。💡幹の部分の議論をしても果てしない論争が続き、枝分かれした議論に進んでも議論は袋小路に迷い込んでしまいます。どれだけ議論しても結論が出ない不思議な議論の一端はお示しできたかと思います。
日本におけるゲノム編集作物第1号シシリアンルージュ・ハイGABAトマトを解説
前編の中で💡パイオニアエコサイエンスの日本初のゲノム編集作物「シシリアンルージュ・ハイGABAトマト」を取り上げました。パイオニアエコサイエンスの子会社サナテックシードで作られ2020年ゲノム編集作物第1号として農林水産省に届け出されました。サナテックシードは筑波大学発のゲノム編集を利用して品種改良した種子を生産・販売する会社です。パイオニアエコサイエンス92%役職員8%の出資比率で筑波大学江面浩教授が技術担当取締役です。
「シシリアンルージュ・ハイGABAトマト」は、築波大学遺伝子実験センターと協力して、ゲノム編集で健康機能成分として注目のアミノ酸GABAを多く含むように設計されたトマトです。自己抑制ゲノムを不活性化しているため高GABAを実現しています。でも、なんのこっちゃという方も多いかと思いますので説明してみます。事前に下記ボタンから(CRISPR-CAS9について)をご覧いただければ理解が進むと思いますので是非どうぞ。
下図をご覧下さい。標的と同じ塩基配列を持ったCRISPR-CAS9のガイドRNAが目的のゲノム(遺伝子)まで誘導し狙ったゲノム(遺伝子)に到着、標的を切断します。切断されたゲノム(遺伝子)は、GADタンパク質のなかでイオン濃度H+により活性化と非活性化のスイッチの役割を果たしています。このスイッチである自己抑制ドメインゲノム(遺伝子)を切断したため常に活性化状態のこのトマトは高GABAとなります。遺伝子組換えとは違うのです。💡自然界で起こるかもしれない突然変異を人為的に起こしたわけですが、現実はゲノム編集作物という理由で根強い拒否反応に直面しているのです。
ミルキークイーンの真実
ミルキークイーンは低アミロースで良食味の高級ブランド米です。コシヒカリの突然変異種をかけ合わせる系統栽培から生まれました。しかし、コシヒカリの突然変異が何故起こったかはあまり書かれません。コシヒカリの受精卵にメチルニトロソウレア (MNU) 突然変異原処理を行って化学的突然変異を起こして育成されたのです。しかし、💡人為的突然変異を起こしたにも関わらず、有害であるという議論は起こっていません。
知見を深めよう
世界で研究が進んでいる中、日本では住友化学、NTTアグリテクノロジー、三井化学クロップ&ライフソリューションなど名のある企業は遺伝子組換えには及び腰で研究は進んでいません。大学の研究と連携する企業の間で行われているだけです。ここでは前編と中編の中から遺伝子組換えとゲノム編集に関連のある記事をボタンで案内したいと思います。
2033年のある日の農業~未来予測
2033年世界人口は予想より早く90億人に近づきました。しかし農業生産はデジタル精密農業により飛躍的に増え、食糧危機は訪れませんでした。ある農場での様子です。
未来の耕作
広大な農場に自動巡回ロボットが走り回っています。衛星データと自動運行ドローンが撮影する幾層ものレイヤーを分析し病害を事前に予測できるようになりました。巡回ロボットはデータを受け取ると対象を正確に絞り、的確に配合された農薬を、搭載しているスマートノズルでピンポイントで噴霧します。雑草も衛星やドローンから送られてくるデータと照合し、瞬時に有害な雑草かを判別します。巡回ロボットは送られたデータを受け取るとスマートカメラで確認し駆除が必要と判断するとレーザー光でピンポイントで瞬時に焼き切ります。10年前には毎年20%~40%の農作物が病害で失われていましたが、現在のデシタル精密農業では95%以上収穫可能です。しかも、遺伝子組み換え作物やゲノム編集の精度が飛躍的に上がり、ブレーキ役の抗CRISPRタンパク質を結合して進化した遺伝子切断ツールCRISPR-Cas9バージョン3.0でピンポイントで正確に遺伝子を切り取ったり埋め込んだり出来るようになり、想定外の危険な作物が作られるリスクは殆ど無くなりました。そのためGM(遺伝子組換え)種子の収量は50%超上がっているのです。
未来の植物工場
建物の中で栽培する垂直農業も飛躍的に進化しました。10年前は水耕栽培のシステムを多数重ねこれを一定の速度で回転させ人工光に当てて育てていたため有機物変換効率1%~2%程度で大量のエネルギーを必要とし、高価な葉物野菜やバジルなどのハーブしか利益を上げることが出来ませんでした。しかし2033年の現在は、青色光と赤色光の波長を使用し、70%もの有機物への変換効率を達成した光合成に最適化された人工光合成の光を浴びながら24時間稼働するシステムの中で、生育を加速させて効率的な環境にも優しいシステムが完成しました。水耕栽培のペレットが無数に24時間高効率の人工光合成の波長に調整された光の中を回転し続けています。しかも世界の気候のカタログデータは精巧に収集整備されており、どんな場所であろうとも世界中の作物が作れてしまうのです。
未来の精密農業ツール
2033年の日本では、デジタル農業と種子はバイエル(デジタル農業クライメートフィールドビュー)、コルテバ(ダウ・ケミカルとデュポンが合併再編してできた企業)、シンジェンタ(中国に食い込むため中国化工集団公司をパトロンとして傘下入りしたスイス企業)、BASF(デジタル農業ザルビオフィールドマネージャー)のバイオメジャー4社に押さえられてしまいました。特にAIと世界中から集めたデジタル農業データをを持つ、バイエルとBASFの精密営農栽培システムは2社で世界シェア70%を獲得しています。日本ではほぼこの2社になり遅れたシステムのクボタKSASや、まとまりを欠くNTTのあい作などは駆逐されてしまいました。
未来の自由貿易交渉
農業のデジタル化と遺伝子組み換えで大きく遅れてしまった日本は、TPPラウンド3でアメリカに農業での大幅な譲歩をせざるを得ませんでした。既にデジタル農業の営農システムはほとんどバイエルのクライメートフィールドビューとBASFのザルビオフィールドマネージャーに独占されており、ベライゾンを吸収したAT&T主導の7G(第7世代移動通信システム)を使い超高速で連動して動く米ディア・アンド・カンパニー製のトラクタージョンディアに置き換わってしまいました。日本の農機メーカーでは、ヤンマーが辛うじて残っているに過ぎません。今回の妥結で稲、大豆、小麦の主要穀物の遺伝子組み換え種子の輸入を認めました。2018年種子法が廃止され、農研機構や都道府県の試験場は種子開発の予算が付かず、主要穀物の稲、大豆、小麦の種子の国内開発は停滞しました。気候変動に対応したGM種子(遺伝子組換え種子)輸入を認めざるを得なくなったのです。交渉で代わりに得たのは、今や観光が最大産業となった日本の巨大企業JTBの圧力を受けて、日本へのアメリカからの観光客の人数保証で、ミニマムアクセス300万人の保証を得ただけです。目立った農業関連企業が不在の日本は欧米のバイオメジャーたちに譲歩せざるを得ませんでした。
日本の農業の未来
💡想像の世界の最悪のシナリオですが、こんな悪夢のようなことは現実になってほしくはありません。今までの文中で様々な日本企業が登場しました。川上の企業として世界で戦えそうな企業はありませんでした。川中(農耕事業)や川下(農作物卸・小売)の企業や農業法人で成果を出しているところはあります。しかし💡川上(種子産業)が重要です。その川上に有望な企業はいないのです。
種子法が廃止になり農研機構や各都道府県の試験場の知見に触れることが出来るようになっても種子メジャーを目指す企業は現れません。
国内化学メーカーは遺伝子組換えやゲノム編集で農業にかかわることに及び腰です。
JA全農は株式会社化を嫌がり、現在の法律に守られた商社機能や金融機能など何でも出来るけれど農林水産省の外郭団体のような立場に安寧しています。
法人の農業参入が可能になり、有力企業が投資し特色ある運営をしていますが全て川下企業です。
大規模農業法人がスマート農業や有機農法で効率的で特色を出した作物を作り利益を出していますが、欧米の巨大農協のような貿易交渉に影響を与えるほどの企業体ではありません。
その意味するところは、最初の命題に戻らざるを得ません。絶望の日本農業です。
最後の命題「種子を制するものは世界を制す」
農業における種子産業が川上産業でありピラミッドの頂上であること、そしてそこに有力企業が必要であることを検証したいと思います。
様々な業界の川上に位置する頂点の企業とは
石油産業をみてみます。川上には石油メジャーたちがいます。川中が石油精製会社で川下が石油・燃料販売会社です。川下の企業はどんなに効率的で強い体質の会社を作っても石油メジャーたちの方針一つで吹き飛びます。川中の石油精製会社は最新設備に投資しても石油メジャーたちの生産計画に翻弄されざるを得ません。価格決定権を持つ石油メジャーの動きで全てが動きます。
IT業界の元請け大手から一次下請け、二次下請けへと作業が細分化されるにつれ利益が薄くなる状況や、建設業界の大手ゼネコンからサブゼネコン、小規模下請けへと作業分野ごとに降りていく仕組みのピラミッド構造。この頂点の企業が下請け企業の生殺与奪の権を握ってる構図とも似ています。
アップルはどうでしょうか。ファブレス企業として工場を持たない企業の代名詞のような印象が強いですがピラミッドの頂点の企業です。現在のアップルは工作機械を貸与し設計どおりに作ってもらったり、下請け企業に設備投資を直接するか、設備投資を相手企業が行う場合は長期契約をしたりと実質ファブレスに変貌しています。しかし、下請けのTSMCや鴻海精密工業がどんなに巨大になっても栄枯盛衰の鍵を握っているのは設計・研究開発を握るアップルです。
航空機産業を見てみましょう。この産業は膨大な数のサプライヤーから成り立っていますが、頂点に立つのは航空機完成メーカーとエンジン完成メーカーのダブルピラミッド構造になっています。完成メーカーの下にはエンジンメーカーや機体メーカーのティア1があり、その下に技術分野に応じてティア2,ティア3と降りていきます。航空機完成メーカーは米ボーイングと欧エアバスが独占、三菱重工などはティア1になります。エンジン完成メーカーは米ゼネラル・エレクトリック、米プラット・アンド・ホイットニー、英ロールス・ロイスの独占で三菱重工、川崎重工、石川島播磨重工業などはティア1です。日本の3大重工業がどう頑張っても完成メーカーの設計に合わせて、品質で受注を勝ち取るしかありません。
💡農業の頂点は種子メジャーたちです。前編の歴史的経緯でお示しした通りバイオメジャーが種子メジャーを飲み込みました。バイオメジャーは農薬・肥料に加え、デジタル精密農業で川中の生産工程も支配しようとしているように見えます。
稀代の政治家キッシンジャー氏の有名な言葉が示唆すること
「食を制するものは人民を支配しエネルギーを制するものは国家を支配し金融を制するものが世界を支配する」1970年代のキッシンジャー氏の有名な言葉です。川上を制する、すなはちピラミッドの頂上を取ることは圧倒的に優位であることをこの賢人は言い当てています。
これって中国のことだよね。バイオメジャーのシンジェンタを取り込み、南シナ海や東シナ海の大陸棚のエネルギーを全部自分のものだと軍事的圧力を強め、人民元の国際化のため人民元での貿易決済対象国をアメリカの空きを突いては増やしと、世界を制する意思があるよね。
最悪シナリオは未来予測にある通り、💡気候変動に対応した種子開発が停滞し欧米のGM種子を買わざるを得なくなり門戸開放してしまう事です。GM種子は間違いなくF1種になるでしょう。石油と同じく価格が高騰しても買い続けるしかなくなります。
前編、中編、後編通じての命題「種子を制するものは世界を制する」に立ち帰らなければなりません。未来予測の最悪のシナリオの通りになればキッシンジャー氏が示唆した通りエネルギーと食糧を制された日本の富の流出は拡大する一方になるでしょう。
日本の農業に未来はあるか
日本の農業プラッフォーマーにはNTT(農業事業をスピンアウト出来た場合)、JA全農(国策会社として民営化が出来た場合)があり、バイオメジャー候補の実力を持つ住友化学、穀物種子メジャーに舵を切った場合のサカタのタネ、カネコ種苗、タキイ種苗などの潜在能力のある企業があります。当ブログの主張は一般的に言われていることと少し違うかもしれません。農業という産業の川上に有力な企業が生まれない限り日本の農業を守ることは出来ないということです。
残念ながら日本は食もエネルギーも潜在能力はあるのに意思がないから制するのは難しそうだということになってしまう。残ったのは金融だね。CBDC(中央銀行デジタル通貨)については記事を予定しています。
※個別株予想は、あくまで個人的見解を示したもので、投資を勧誘や推奨するものではありません。
過去の実績や未来の予想は投資成果を保証するものではありません。
売却を勧めるものでもありません。
投資の判断は皆様ご自身の決定にてお願い致します。