個別株予想~キリンビールホールディングスの将来性~アサヒやサントリーと比較してみる

キリン、アサヒ、サントリーどこが一番優れた企業統治なのか~それは意外にも・・・

この3社は全て純粋持株会社制に移行しています。
2007年キリン、2009年サントリー、2011年アサヒの順番です。
しかし企業研究の結果は、実際は形だけの持ち株会社制であったり、変容を遂げ、形態だけの持ち株会社制から脱皮したりと色々でした。
まずは実際に各社のビールを飲んで感じたことから入ってみました。
ビールの出来栄えと企業の将来性は一致するのかどうなのか、よろしければ最後まで読んでいただければ。

このブログ記事は創業家制(世界的にはファミリー企業)の企業統治が優れていることが前提になっています。読み進む中で理解しにくい点が出てきた場合は、創業家と対立したパナソニックと創業家が自滅したソニー~創業家が退場し普通の企業になったのか(1)及び(2)をお読み下さい。

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【序章として】ビールの品質にこだわりを感じたのは

企業研究のきっかけは、キリン「一番搾り」を飲んだことからでした。

麦芽100%はサントリーモルツだけじゃない

麦芽100%ビールのキリン「一番搾り」500ml缶を、たまたま義兄との食事時に差し入れで飲んだのですが、予想以上に実に美味かったんです。もともとビール好きでブログにも掲載しているチェコビールやドイツビールなどがとても好きだったので「いやいや日本のビールってこんなに美味しかったっけ」とびっくりしてしまいました。(ビールについてはビールをいただこう~麦芽とホップと水の歴史を訪ねて世界を巡る~Budvar(ブドバー)を飲むなど興味があればご覧ください。)
日本ビールは何かどの銘柄も同じ味で、基本的にコーンスターチや糖類などが原料に含まれていて、今まで飲んで本当に旨いと思わなかったので本当にびっくりでした。
日本のビールで、飲んで本当に旨い!と思ったのは瓶のサントリーモルツでした。

一番搾りのラベルには原材料麦芽は外国製造又は国内製造(5%未満)と記載があり、ほぼ外国産であることを知りました。
更にキリン「一番搾り」の銘柄について調べると、1999年中国で現地製造2012年から麦芽100%化していたり、欧州やオーストラリアで委託生産のみならず1997年にはアンハイザー・ブッシュが委託生産開始2011年麦芽100%化、麦芽100%化することで 2010年には本場ドイツで委託生産開始と非常に品質にこだわった近年の動きに何か企業としての姿勢に好感を持ちました。
もともとキリンビールは企業としてもとても興味あり、医薬分野なども知っていましたが、これはひとつ投資対象として研究する価値があると思ったんです。
(キリン「一番搾り」の評価もビールをいただこう~トラピストビール「シメイ・レッド」と「一番搾り」を飲み比べてみたに記載しております。)

キリンの企業統治の形態は

早速企業研究を開始、すると麒麟麦酒株式会社はキリンホールディングスの連結子会社ではありませんか。「おいおいこれはソニーとパナソニックの企業研究でやった創業家制に匹敵する、最先端の企業統治ホールディングスじゃないか。やっぱりな。」と自分にツッコミを入れてしまいました。
俄然興味が湧いてきた次第です。

2007年に純粋持株会社化(ホールディングス)されていて、その歴史を遡ると三菱財閥傘下の麒麟麦酒として発足とあり、財閥系でもあるのかとこの企業の毛並みの良さに意を強くしました。
四季報で調べるとt株主にはやはり三菱系の企業が名を連ね、安定しているようです。
旧財閥系相互集団的企業でもあったわけです。

【考察1】キリンHD、アサヒGHD、サントリーHDで一番の巨大企業はどこか

この3社は規模的に近くその力関係も時代とともに移り変わっています。
キリンが圧倒していた時代から、アサヒが徐々に力をつけ世界という土俵で見ると上回ってきたり、創業家が支配している非上場のメリットを活かし、長い時間をかけてのし上がってきたサントリー。
その原因も深掘りしていきます。
非上場企業サントリーが入っているため、時価総額の比較ができず、総資産での比較も試みました。

A.規模を見る

ここでキリンHD、アサヒGHD、サントリーHDを比較してみましょう。
本ブログは、企業分析、特に株価予測には公開されている数字を極力使わないことを原則にしていますが、サントリーHDは非上場なので公開されている数字をもとに企業規模を比較して相対的なキリンの位置を確認したいと思います。

会社名時価総額(2022.11.30)総資産売上高経常利益企業買収
キリンホールディングス1兆9788億円
(2022.11.30現在)
2兆4719億円
(2022.11.30現在)
2兆1969億円
(2015.12.31現在)
1兆8215億円
(2021.12.31現在)
990億円ミャンマー事業撤退の特別減損
(2021.12.31現在)
2270億円
(2022.12.31予想)
’07協和発酵工業がキリン傘下へ
’09豪酒類販売大手ライオンネイサン社の全株取得し完全子会社化
’11ブラジル2位のビール会社スキンカリオールを3000億円で買収
’17ブラジルキリン(旧スキンカリオール)売却
’19協和発酵バイオがキリンの完全子会社へ
アサヒグループホールディングス2兆2298億円
(2022.11.30現在)
4兆5477億円
(2022.11.30現在)
1兆6895億円
(2015.12.31現在)
2兆2360億円
(2021.12.31現在)
1990億円
(2021.12.31現在)
’16~’17欧州東欧のビール会社を1兆1900億円で買収
’19豪州ビール最大手1兆2000億円で買収
サントリーホールディングス
(2020.12.31現在)
非上場
[参考]サントリー食品インターナショナル
1兆4121億円
(2022.11.30現在)
連結4兆5212億円
単独2兆2157億円
連結2兆3676億円連結2010億円’14ビーム社を1兆6500億円で買収

A.規模を見る-a~大まかな規模を押さえる

まず3社ともホールディングスという企業統治の形態ですが、キリンは三菱グループでサントリーは創業家統治、アサヒは旧財閥ではありません(住友銀行から送り込まれた樋口廣太郎氏1986-1992がスーパードライで業績を大きく回復させ三井住友グループとの関係が深いです)。
売上高、経常利益の規模からすると3社とも同規模の企業と考えていいかと思いますが、企業買収の成否でキリンが他の2社に比べ総資産で見劣りしてきているのは否めません。
表の企業買収を見て下さい。後段で詳しく説明しますがキリンの海外買収の失敗は目を覆うものがあります。

A.規模を見る-b~各社の海外進出の成否と総資産の増減

キリンはブラジルのビール会社スキンカリオールを買収しましたが、失敗に終わり2017年売却しています。なので他の2社に比べて総資産は増えていません。
一方アサヒは相次ぐ巨額買収で総資産を大きく増やし、キリンに差をつけていますが、巨額投資に見合うかどうかです。
そしてサントリーは買収したビーム社が軌道に乗ってきています。本体は非上場ですが、上場した子会社サントリー食品インターナショナルの時価総額はキリンに迫るものがあります。
2010年サントリーとキリンの合弁が破談になった当時、キリンが規模で圧倒していた時とはかなり状況が違ってきています。

B.内容を見る

ここで3社の企業統治や海外事業の現状を少し深掘りして理解を深めたいと思います。
海外事業の成否が、企業の序列の下剋上を引き起こしているところもご注目下さい。

B.内容を見る-a~【キリンHD】

【キリンHD】海外進出の失敗

2011年キリンはブラジルでのビール会社スキンカリオールのM&Aを行いましたが、失敗し結局2017年ハイネケンに売却していますので総資産は伸びていません。
スキンカリオールは100%ファミリー企業です。持分を二分する創業家の一方から買収したため、創業家間で争いとなり法廷闘争に巻き込まれています。同業他社が手を出さなかった会社に何故手を出したのでしょうか。
やむなく2012年完全子会社化に踏み切り、ファミリー企業を高値で100%買収しました。
経営をそのまま創業家に任せたのですが、買収した会社の経営を創業家に任せたらだめだと思います。
💡ファミリー企業は創業家が統治するから栄えるのです。オーナーと創業家の「監督」が二人いる二重構造は混乱を招くだけです。サントリーのビーム社買収後の企業統治と比較してみて下さい。

【キリンHD】その他の海外事業概況は

2002年フィリピン最大財閥系コングロマリットのサンミゲルグループ本体への出資から、2009年分社したサンミゲル・ブリュワリーへの出資は本体との株式交換により、ブリュワリーの約48%まで出資比率を上げています。(サンミゲルグループはアヤラ一族支配であり、この企業もまたファミリー企業です。)
2007年の豪乳製品首位ナショナルフーズ社完全買収(後のライオン飲料で企業売却という結末で終わっています。)、2009年資本参加していたライオンネイサン社を完全子会社化(ライオンネイサン社も創業一族3代目経営のファミリー企業です。)、2015年ミャンマー・ブルワリー株55.0%取得し子会社化(ミャンマー軍の国軍系コングロマリット関連会社であり、ロヒンギャ人権侵害の軍の資金源と指摘されています。結局2022年ミャンマー撤退に追い込まれています。)、など理由は様々ですが、全般的に決して順調とはいえません。
ファミリー企業や国軍系コングロマリットの企業など、複雑な背景の企業が多いのは何故でしょう。
💡決算をよくする事が優先で事前調査が不充分なのでしょうか。

(このあたりの論点は、関連記事創業家と対立したパナソニックと創業家が自滅したソニー~創業家が退場し普通の企業になったのか(1)および(2)をご覧ください。)

【キリンHD】企業統治の実態

2010年サントリーとの経営統合が破談になった原因の一つも、サントリー創業家の株式保有割合が残ることがネックだったようで、ホールディングスの意義「監督と執行の分離」をキリン経営陣が本当に理解していない、自身が形態だけのホールディングスなのではないかと疑問を持ちます。
それは新卒採用にも現れていて、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの一体採用になっています。各々が独立した法人ではない証左です。

【キリンHD】キリンのアキレス腱

キリンを2.0%保有する英投資会社フランチャイズ・パートナーズは、非中核事業(協和キリンと協和発酵バイオ)を売却しビール事業への特化を提案しましたが否決されています。
確かに経営統合した協和発酵工業から派生した、協和キリンと協和発酵バイオの企業統治には苦労しており、統合をやり遂げ利益を出す会社にするのは時間がかかるかもしれません。
協和発酵バイオは2019年12月、防府工場で届け出と異なる方法で医薬品を製造したとして業務停止命令を受けています。それ以外にも2012年厚生労働省、2010年と2018年アメリカ食品医薬品局から指摘を受けています。キリンが子会社統治に問題を残している証左です。
本業のビール事業は問題ないのですから、このあたりがキリンのアキレス腱だと思います。

B.内容を見る-b~【アサヒGHD】

【アサヒGHD】アサヒの企業統治は本当に変わったのか

小路明善GHDグループホールディングス社長(2011年純粋持株会社移行→同年アサヒビール社長に就任→2016年-2021年アサヒGHD社長→2021年から代表権の無い会長)体制で海外M&Aを主導しました。
小路GHD社長は2019年3月、理由は明らかになっていませんが、子会社アサヒビールの社長の平野伸一氏(2016-2019)交代劇を主導しました。「一定の期間業績が下回れば、社長を解任する」という自らの独走を防ぐ仕組みを作ったので、それを子会社にも適用したのではないでしょうか。
小路政権の時期、代表権を持つ取締役は社長一人としたので、当時の泉谷HD会長は代表権を返上しています。そして自らも2021年の後継指名後、代表権を返上しました。
ライバルの麒麟麦酒は布施孝之社長(2015年-2021年)の時期で、V字回復の最中でした。(後述の「磯崎HD会長の企業統治が子会社の麒麟麦酒では良かった時期がある」の項をご参照下さい)
分かりやすいように一覧にしてみました。

【アサヒGHD代表権を持つ役員を色付け】

※2011.7よりホールディングス2011.7-2016.32016.3-2019.32019.3-2021.32021.3-
泉谷直木氏アサヒGHD
代表取締役社長
アサヒGHD
代表取締役会長
アサヒGHD
会長(代表権なし)
小路明善氏アサヒビール
代表取締役社長
アサヒGHD
代表取締役社長
アサヒGHD
代表取締役社長
アサヒGHD
会長(代表権なし)
勝木敦志氏アサヒGHD
代表取締役社長
平野伸一氏アサヒビール
代表取締役社長
塩澤賢一氏アサヒビール
代表取締役社長
アサヒビール
代表取締役社長

従来の出世のルートはアサヒビールの社長からアサヒグループホールディングの社長の流れが基本でしたが、2019年以降の小路アサヒGHD社長より変わりました
子会社アサヒビールとGHDの人事は明確に分けられました。平野アサヒビール社長はそのまま退任し、次の塩澤アサヒビール社長もアサヒグループホールディング社長になっていません。
アサヒグループホールディングの社長になったのは、子会社ニッカウヰスキーから転籍した勝木氏だったのです。異色の人物像です。
しかも代表権を持つ社長は1人で、「監督と執行の分離」が明確に意識されています。

【アサヒGHD】海外M&Aは成功なのか

アサヒは2016年・2017年の欧州、東欧(アンハイザー・ブッシュ・インベブより中東欧のビール事業とイタリア「ペローニ」チェコ「ピルスナーウルケル」買収)、2020年の豪州(アンハイザー・ブッシュ・インベブから豪トップブランドのカールトン&ユナイテッドブリュワリー買収)、と相次いでビール事業で大型のM&Aを行い総資産を大きく伸ばしました。
大型M&Aは決断できたのですが合計2兆4000億円もの投資をして見合うものなのでしょうか。
各経済誌は海外事業成功と称賛していますが、いつも通りのその場の結果論です。
利益に貢献してはいますが、巨額投資が重荷になってくる可能性もあります。もしそうなった場合、経済誌はなんと論評するのでしょう。
海外のビール会社を買収し成長する路線は分かり易いのですが、見極めたほうが良いように思います。
巨額投資の海外事業が成長のエンジンになってこその成長戦略成功です。その確信が持てるまでは、現在の株価は実態に即しているかどうかわからないと心に留めておくべきです。

【アサヒGHD】巨額買収は足かせになるかもしれない

1987年発売のアサヒスーパードライの成功で一世を風靡、しかしスーパードライ一本での成長に限界が出て海外事業へ成長を求めました。
世界最大のビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブの中核事業から外れた地域のビール会社を棚ぼたで次々に手に入れ、2022年のアサヒの組織変更で日本はその中の一地域になり、国内シェアは追わないそうです。
2020年からは国内販売量の集計も止めています。
アンハイザー・ブッシュ・インベブも買収を重ねて巨大になった企業ですが、その負債に耐えかねてアサヒへ売却したのです。(西欧、東欧のビール事業を持っていたのはSABミラーですが、2016年10月にはアンハイザー・ブッシュ・インベブに買収され企業としては消滅しています。)
アサヒの手法に将来があるかどうかまだ確信は持てないと思います。

(スーパードライに関する記事ビールをいただこう~ボックビールの記憶のピースに迫る~対極のスーパードライも飲んでみたもよろしければ読んでみて下さい。)

B.内容を見る-c~【サントリーHD】

【サントリーHD】サントリーは創業家制ホールディングス

サントリーは皆さんご存知のように非上場の創業家統治制の企業です。
創業家統治企業の最も効率的な特徴「所有と経営の分離」、ホールディングスでいうところの「監督と執行の分離」が最も明確な企業です。
「やってみなはれ」はサントリー創業者、鳥井信治郎氏の有名な言葉ですが、松下幸之助氏の「任せて任せず」と何か相通ずるもがあると思いませんか。

キリンとの経営統合の話は2010年破談となりましたが、旧三菱財閥系の統治手法の経営陣に創業家制の会社は理解できるとは思いません。
キリンが統合後のサントリー創業家株式持分が1/3超でも経営に関与しないよう求め拒否されたようです。創業家制が前近代的だと思っているわけですから水と油ですね。

近年は子会社で上場会社のサントリー食品インターナショナルの時価総額だけでもキリンに迫ってます。立場は当時と逆転と言ってもいいですね。

【サントリーHD】サントリーの海外事業はどうなのか

2014年ローソン前社長の新浪剛史氏が社長に就任。創業家からの指名のプロの経営者ですからまさに世界レベルのファミリー企業の形態です。(関連記事創業家と対立したパナソニックと創業家が自滅したソニー~創業家が退場し普通の企業になったのか(1))
2014年米蒸留酒大手で、「ジムビーム」や「メーカーズマーク」で知られるビーム社を1兆6500億円(当時のレートなので160億ドル、2022年10月に記録した1ドル150円のときで換算すると2兆4000億円です。隔世の感があります。)で買収、新浪社長はビーム社の経営陣と衝突を繰り返しながらも軌道に乗せたといいます。
アメリカバーボン業界興隆に大きく貢献してきたビーム社は7代目当主フレッド・ノウが統治するビーム家支配のファミリー企業です。
当時の記事から、新浪社長はサントリーがオーナーで「監督」者であり、ビーム家は「執行」する経営陣であることを議論し分からせたのだと思います。プロの経営者の所以です。
同じファミリー企業買収でも、買収後の企業統治の手法は、キリンと何という違いでしょうか。

ビームこぼれ話~ブッカーズというバーボンの逸品

余談ですが、6代目当主ブッカー・ノウの最高傑作にして限られた出荷本数のため正規ルートで入手困難なバーボン、ビーム社の「ブッカーズ」は、樽熟成のまま瓶詰めされ割水(水でアルコール度調整)をしません。
濾過もされないアルコール度数60度~65度の希少なお酒ですが、是非味わってみたいですね。

<strong>「ブッカーズを入手して独り言です」</strong>
「ブッカーズを入手して独り言です」

2023年12月待望のBooker`sを入手しました。イギリスのMaster of Maltのサイトから輸入です。タイミングよく在庫があったためすぐに注文しました。送料が必要なのでまとめ買いや共同購入などがおすすめです。日本への輸出不可の業者が多い中、ここは老舗で輸出OKです。
為替レートも上乗せなどなく良心的ですが、現在円安ポンド高なのでやや高いかなという感じでした。品物は間違いないので日本入手不可のレアな商品は検討の価値ありです。
(記事本稿は2022年12月28日公開したものです)

【考察2】企業統治から将来性を見る

現在の経営陣の評価やそこに至るまでの経緯を確認し問題点を炙り出したいと思います。
将来予測ですからそこに株価予測や売買戦略も入ってきます。
てきる限り核心に迫れればと思います。

A.企業統治から将来性を見る【キリンHD】

2007年にホールディングスとなりました。
しかし実態はホールディングス社長と子会社の麒麟麦酒社長は密接に関連していて一体の企業です。
ホールディングスの最大のメリット「監督と執行の分離」に気づいていません。実質企業形態が変わっただけです。
通常の事業会社と同じですから、その時の権力者の才覚一つで企業は左右される運命にあります。

キリンHD】-aキリンHD初代社長加藤氏と二代目社長三宅氏の実績は

初代ホールディングス社長の加藤壹康氏(2006-2010HD初代社長→引責辞任→2010-2012HD会長)
アサヒに奪われた業界首位の座を奪還すべく(アサヒスーパードライの躍進)、豪乳業1位のナショナルフーズ買収(現ライオン飲料)と2009年豪ビール2位のライオンネイサン社(現ライオン酒類)の完全子会社化に巨費を投じて踏み切りました。
これは後にライオン飲料の業績不振より売却という形で失敗に終わります。
2009年にはサントリーとの経営統合交渉が明らかになりますが、2010年破談しています。
これらにより引責辞任に追い込まれました。

2代目ホールディングス社長の三宅占二氏(2010-2015HD社長→引責辞任→2015-2016HD代表権の無い会長)
キリンの海外事業失敗の象徴、ブラジルのスキンカリオール買収を主導しました。
詳細は上段に記述済ですので繰り返しませんが、この失敗が引責辞任の大きな理由になっています。

キリンHD】-b3代目ホールディングス社長磯崎氏をどう見るか

3代目ホールディングス社長の磯崎功典氏(2015- )
三宅氏の後任は、子会社麒麟麦酒社長の磯崎功典氏が就任しました。
形態はホールディングスですが一体の会社ということです。
キリンホールディングスの舵取りは、磯崎氏の才覚次第ということになります。
初代、2代目と続いた見通しの甘かった経営の連鎖は、力を失い後継指名できなかったはずですから、ここで一旦終わったと見ていいと思います。

磯崎氏の海外戦略

磯崎HD社長は近年海外事業組み換えのため、クラフトビール会社を次々と買収しています。
2020年米クラフトビール3位のニューベルジャンブリューイングを豪子会社ライオンを通じて買収。買収金額非公表。(1991年ジェフ・レベッシュ創業)
2021年豪クラフトビール専業のファーメンタムグループを豪子会社ライオンを通じて買収。買収金額約400億円。(子会社ストーン&ウッド1996年スティ-ブ・ワグナー共同創業)
2022年米クラフトビール7位ベルズ・ブルワリーを豪子会社ライオンを通じて買収。買収金額約400億円。(創業者ラリー・ベル引退による売却)

ただ小規模で成長の牽引力となるかは疑問です。
そしていずれもファミリー企業です。舵取りは大丈夫でしょうか。

過去の海外事業の整理

キリンは海外事業組み換えの一環として、事業失敗の整理も行ってきました。
事業失敗の原因は非常に甘い見通しとの論調が経済誌一般の見方です。
しかし、ファミリー企業(日本で言う創業家経営)の本質を知らなさすぎるというのが核心をついている言葉ではないでしょうか。
サントリーとの経営統合失敗が如実に語るように、ファミリー企業(ここではミャンマーの国軍コングロマリットも含めます)を前近代的と誤った見方をしているため、買収して支配的地位を獲れば経営陣は言うことを聞き、近代的経営がいい結果をもたらすとの見当違いの見込みがあったのだと思えて仕方ありません。

2017.2 ブラジルキリン(旧スキンカリオール)の売却を発表。
2020.10 ライオン飲料(旧ライオンネイサン由来)の売却を発表
2022.2 ミャンマー市場から撤退へ。
2022.6 ミャンマーブリュワリー譲渡先決まる。

人員整理と再配置

キリンホールディングスは2019年9月45歳以上のHDと麒麟麦酒の職員対象に早期退職者を募集しました。グループ会社のメルシャンでも早期退職者の募集をかけています。
これに先立ち2019年2月にはグループ企業の協和キリンでも45歳以上の職員対象に早期退職者募集をしており300人近くが応募しています。
また、麒麟麦酒、キリンビバレッジ、メルシャンのグループ企業5000人を対象に、2019年11月までにホールディングスに転籍するかそのまま事業会社に残るかの選択をするように迫っています。
出世を選ぶかどうかの選択のようです。(この3社は採用も一体採用なので一体の会社です。)

経済誌は過去最高益なのにリストラと前向きに捉えた記事になっていますが、今までの企業研究でもソニー、パナソニック、富士通と「所有と経営の分離」「監督と執行の分離」が曖昧な時期にリストラが行われています。
事業会社の人員整理は経営者が決算をよく見せるために行われるもので過酷です。
一方、創業家統治や「監督と執行の分離」がきちんと行われているホールディングスでは、会社の永続のために考えられるので起こりにくく、あっても合理的です。

キリンホールディングスもこの線上で見るとスッキリと見えてきます。
キリンホールディングスも悩める巨人なのだと思います。

英投資会社FPの提案が核心をついている訳

キリンを2.0%保有する英投資会社フランチャイズ・パートナーズは、2019.10医薬やバイオなどの多角化路線を止め、ビール事業に特化するよう提案しましたが、磯崎社長は多角化路線がキリン成長の方向性だと主張し意見は対立しました。
2019年4月に1280億円で協和発酵バイオを子会社化、8月には1300億円でファンケル株式33%を取得し資本業務提携しています。
結局、フランチャイズ・パートナーズは株主提案を行いましたが否決されています。
多角化事業の中核、協和キリンと協和発酵バイオの企業統治に苦労している現状を見ると、両社やファンケルを売却しその資金で自社株買いを行えば理論株価は3700円程度だというフランチャイズ・パートナーズの主張は的を得ているように思えます。

磯崎HD会長の企業統治が子会社の麒麟麦酒では良かった時期かある

キリンHDの子会社、麒麟麦酒の第18代社長、布施孝之氏(2015年-2021年)の時期、麒麟麦酒は好調でした。2021年11年ぶりにシェア首位を奪回し、V字回復と言われました。
磯崎会長と布施社長は、神戸支店時代の先輩後輩で、お互い愛称で呼び合う中だったそうです。
そして布施社長は「本社の言う事など聞かなくてよい。私が責任を持つ。」という気概を持った方だとの記事を読みました。
この時期、布施社長は思ったことを実行に移せた時期、そして磯崎会長はそれを庇護した時期だったはずです。
そして布施社長も、社内にしがらみのない外部人材P&G出身の山形光晴氏を執行役員として迎え、思う存分手腕を発揮させました。キリンHome Tapが生まれたのはこの時です。
この「監督と執行の分離」状態こそ企業統治の最良の形で、経営者は力を発揮できます。
不幸なことに、布施社長は2021年9月急逝してしまいました。

キリンが生んだ流行りのサブスクだかどんなサービスなのか

【キリンHome Tap】
会員制生ビールサービスのサブスクリプション料金制。
専用ビールサーバーを無料レンタルし、特殊専用ペットボトルに入れて新鮮さをキープしたまま自宅へ届くサービス。
個性派揃いのクラフトビールや「一番搾りpremium」などのプレミアムビールが味わえる。

次期社長から分かること

布施社長の急逝後、磯崎会長が麒麟麦酒社長を一時的に兼任した後2022年1月次期社長がキリンビバレッジ社長からの横滑りで堀口英樹氏に内定しました。
15年ぶりの麒麟麦酒への復帰の堀口氏が、布施前社長と同様に思ったことを実行に移せるかは未知数です。むしろキリンHDの企業統治の実態から、そうならないでしょう。
当面は、布施前社長が敷いた「一番搾り」を全面に出したマーケティングが継続されるでしょうが、大きな飛躍はないと思います。

キリンHD】-cそしてキリンHDの株価は配当は

証券アナリスト達は布施前社長時代からの流れで、強気の評価をしています。
現在までの公表されている決算関連の数字はそのとおりだと思います。

企業統治の観点からは

企業統治の物差しからは違うものが見えてきます。
堀口新社長率いる麒麟麦酒は無難な新機軸しか打ち出せず、早晩頭打ちになってくると思います。
磯崎会長率いるキリンHDは多角化経営の協和関連子会社がどうなるかですが、協和キリンの合併当時の売上計画5000億円には遠く及ばず、協和発酵バイオは度重なる当局からの指摘や業務停止処分。
協和発酵との考え方の違いを未だに埋められておらず、真の融合には至っていないと言われています。
企業統治が今のままであれば、完全に掌握出来てない上に、子会社に経営を任せて監督の立場に徹するホールディングスのメリットを活かす経営にはならないと思われますので、一進一退が続くと思います。

配当について

現在の株価は、配当が支えている側面もあります。
直近の配当性向は90%を超えています。高配当は、そうしなければ資金が集まらない裏の意味があることは頭においておいたほうがいいと思います。
今後2000円を大きく越えて成長していくことはないと思いますので、人事などを注視し企業統治に変化がない限りボックス圏を抜けることはないと見ています。

キリン株の売買戦略

したがって、方針を出すとすれば買値から5%下がれば追わずに損切り、10%上がれば利食い売りではないでしょうか。
現在の株価が2100円程度ですから2000円を割ってしまえば即売却、2300円に到達すれば売却で手仕舞い方針が良いと思います。
明日の株価がどうなるかはわかりません。
キリンに将来性を感じれば何があっても保持できます。
ここまで見てきた限りでは麒麟麦酒に関してはビール専業で、負の遺産の海外事業も整理できて、好調を維持すると思います。
しかしキリンホールディングスとしては、多角化路線の成否、協和関連の企業統治、海外事業の組み換えと企業統治の成否など、ハードルが多く、磯崎会長が克服していけば株価は大きく改善すると思いますが、「監督と執行の分離」になっていない企業統治が根本にある以上、大きく飛躍、すなわち株価が大きく上昇することはないはずです。

B.企業統治から将来性を見る【アサヒGHD】

【アサヒGHD】-aアサヒの企業統治

アサヒはこの3社の中で最も遅い2011年7月にホールディングスとなりました。
当初はアサヒビールの社長からアサヒグループホールディングス社長の流れで、形態だけのホールディングス化でしたが、2019年小路社長の「監督と執行の分離」の明確化により、本来のホールディングスの形態に変わりました。
同年には、英拠点に高級ビール輸出の権限委譲をするなど「監督と執行の分離」をはっきり意識しているように伺えます。
「監督と執行の分離」の明確化により、企業統治の観点からは、形態だけホールディングスのキリンに差をつけ、創業家制のサントリーと競い合うことになるでしょう。

【アサヒGHD】-b成長へのハードル

国内シェアは追わず、中核事業にビールを置き、高価格帯のビール会社買収による海外事業を拡大させてきた中で、海外事業が巨額投資に見合う利益を出せるかどうかです。
現在までは好調に推移し、2021年12月期で海外事業が全利益の74%を占めるまでになっています。
しかし、世界戦略の一地域となった国内シェアは低下傾向で、買収による巨大化もアンハイザー・ブッシュ・インベブと同じように、利益が思うように伸びなければ、巨額の買収資金が重荷になり海外事業も手放さなければならなくなるかもしれません。

アサヒとキリンの海外事業買収の大きな違い

因みに、海外事業買収でアサヒとキリンがよく対比されます。
アサヒが上手くいき、キリンがつまずいていると。理由は様々論じられていますが、アサヒは全てアンハイザー・ブッシュ・インベブやSABミラーがファミリー企業を統治した後の会社を買っています。キリンはファミリー企業を直接買っています。
そして欧米にはファミリー企業が前近代的だなどの偏見は全くありません。むしろ普通に存在しているのでその統治も手慣れています。
ここが違うのです。

【アサヒGHD】-c勝木体制下での今後の見通し

課題は多いのですが、ホールディングスという企業統治形態が正常に機能すれば、困難は克服されるはずです。
新しいアイデアや企業買収かもしれませんが出てくるはずです。
第3代勝木アサヒGHD社長は、人事抗争とは無縁でいられます。傘下の企業の庇護者として振る舞い子会社を活性化出来ます。
困難は乗り越えられるのがこの企業統治の最大のメリットです。

勝木新GHD社長の就任後の足跡~DX化

勝木アサヒGHD社長が就任後何をしてきたかを見てみましょう。
インタビューで「DXを通じて新たなビジネスモデルを作る」と行っています。
2020年4月にデータを活用した新しい価値を作るValue creation室を創設しています。
データアナリストを育成し新しい飲食のビジネスモデルを作るのが狙いだそうです。
製造工場のリモート化も進めています。
最終的には1人で8つの工場の監視ができるようになるようです。
どれもふんわりとしていて、どうも突破力にかける膝を打って納得する話ではないと思いませんか。

サステナブル経営

サステナビリティな経営を最重要課題としていると明言しています。
インタビューで「気候変動」、「プラスチック問題」、「持続可能なコミュニティ」、「不適切飲酒の撲滅」をサステナビリティ戦略として挙げています。
「気候変動」では2025年までに再生エネルギー100%工場を21工場に、カーボンゼロの削減目標の上方修正をしました。
「プラスチック問題」では間伐材や麦芽焙煎工程で発生する粉末利用でプラスチックカップゴミ削減、
チェコホップ名産地ザーツ地方の気候変動による品質低下に対する支援で「持続可能なコミュニティ」実現への貢献を、「不適切飲酒の撲滅」へ微アルコール商品の開発と非常に積極的です。
そのよう活動でESG評価機関から高い評価を得ていますが、全てが企業の実績とダイレクトに繋がるものではありません。
外的評価が高くて企業実績を上げることが出来なかったというと、Fortune誌が選ぶ「ビジネス会で最もパワフルな女性」に長年ランクインしていたIBMのジニー・ロメッティーCEOを思い出します。
(参考記事個別株予想に挑む~IBMはamazonになれないのか~そして富士通はIBMかamazonか (1))

2022年12月インタビュー

しかし、最近のインタビューで興味深い発言をしています。
「アサヒの足りないピースは北米」だと。
主力ビールのスーパードライ拡販のため現地企業の合弁や買収を探る方針を明らかにしています。
勝木アサヒGHD社長は小路前社長時代に国際買収を手掛けた方で、世界最大の市場北米で大きな提携が実現すれば一気に株価は上昇するでしょう。
DXもサステナブル経営も具体的買収が実現すれば一気に企業価値を高める材料になるでしょう。
しかし、インタビューで述べたということは具体的になにか潜行して進んでいる訳では無いのだと思います。企業の収益力を示す指標の一つEBITDA(利払い税引き償却前利益)が純有利子負債に占める割合が、現在の6倍から3倍以下になる2024年まで大型買収はしないと語っていますので間違いないでしょう。
裏を返せばそうならなければ買収資金の捻出は厳しいわけです。
ただ、企業統治がしっかりしている企業ならば、勝木アサヒGHD社長がやり遂げる決意が揺らぎさえしなければやれるはずなのです。
この「足りないピース」でなにかニュースが飛び込めば、その威力は大きいと思います。

【アサヒGHD】-dアサヒ株の売買戦略と配当

現在の株価は4300円前後で推移。下落傾向続いています。
配当性向は直近36.0%で順当なレベルです。
今後も安定して配当が得られるのではないでしょうか。
利益も右肩上がりです。
成長へのハードルは、企業統治がしっかりしている限り克服します。その過程で多少の下振れはあるかもしれません。
この水準で買い、成長と戦略を見ながらいかにハードルを超えていくか、中長期で見たい企業です。
なにかのきっかけで大きく伸びる可能性がある企業です。
そのきっかけの最大のキーワードは「足りないピースは北米」だと思います。
明日の株価はわかりません。株価予測は無意味です。
企業統治と収益を生む力に納得がいけば保有し、中長期保有のスタンスで持ち続ける限り、果実を得るのは間違いないと思っています。

C.企業統治から将来性を見る【サントリーHD】

最も優れた企業統治形態の創業家制です。
2014年プロの経営者の新浪社長を迎え、盤石の体制です。
しかし非上場なので直接本体の株は買えません。

【サントリーHD】-a対象はサントリー食品インターナショナル

買うとすれば、間接的に子会社で上場会社のサントリー食品インターナショナルになります。
サントリーの清涼飲料水事業子会社です。
英語社名Suntory Beverage&FoodからサントリーBFと略されています。
サントリーHDが59.4%保有する創業家支配の構造が当てはまる企業です。
中長期的な観点から成長を目指す企業統治が効いている企業です。
「監督と執行の分離」で創業家の監督がある以上、経営者は社の発展に専念できます。
コントロールできる資産が増えても経営者の力がそれに連れて増すことはありません。
報酬が過大に増えることも、自己保身のための企業買収もないのです。

【サントリーHD】-bサントリー食品インターナショナルの概要は

サントリー食品インターナショナルについて押さえておきたいと思います。
2009年サントリーホールディングス化するタイミングでサントリー食品設立、2011年海外買収企業(フルコア、セレボス、ペプシボトリング)などを傘下に置く組織変更を行いサントリー食品インターナショナルに商号変更しています。
社名のインターナショナルの通り、海外企業買収による海外比率が高い会社です。
2009年に約3000億円でオランジーナ・シュウェップス買収、2013年9月グラクソ・スミスクラインの清涼飲料事業を2106億円で買収しています。
2013年7月東証1部上場を果たしました。
上場後は2015年のJTの自販機事業を1500億円で買収が目立つ程度で大きな買収はしていません。

【サントリーHD】-cサントリー食品インターナショナルの海外事業買収について

創業家支配とはいえ上場している以上、株主に対する説明責任があり大きな企業買収は上場前がほとんどです。
上場後の海外買収戦略がそれほど活発でないのは、すなわち売上と収益が計画通りに伸びていないということです。
直近2022年11月の急落や2019年から2021年の下落傾向、株価の長期頭打ちの理由は、コロナ禍での経済停滞以外そのような背景があるのだと思います。
それでも2021年決算を見ると、概算ですが有利子負債2150億円EBITDA2230億円でアサヒと比べると過大ということはありません。

【サントリーHD】-dサントリー食品インターナショナルの新社長人事

2022年12月社長交代の人事が発表されています。
サントリーHD常務執行役員の小野真紀子氏で2023年3月就任予定です。
2016年の小郷社長、2019年齋藤社長から3年毎の社長交代です。
東京外国語大学出身でサントリー入社後の経歴を見ると国際畑を歩んでおり、直近はOrangina Suntory France CEOです。

【サントリーHD】-eサントリー食品インターナショナル株式の売買戦略と配当

今後海外事業の買収に動き出すサインなのかどうかです。
企業統治は問題ないので、収益を生み出す買収戦略があるかどうかにかかっています。
配当性向は35.1%配当利回り1.7%で標準的です。今後も売上と収益が伸び悩む限り、株価は行ったり来たりだと思います。
明日の株価はわかりません。
サントリー食品インターナショナルを保有するなら、多少の株価の上下には目をつぶり、海外の大型企業買収により収益構造に変化がもたらされるのを待つことでしょう。

【考察3】もう一つの物差し

企業統治は企業が事業を遂行するのに非常に重要だと思っています。
経営するのは人ですから、決算の数字はその結果出てきたもので独り歩きするものではありません。
ですからチャートはもちろんですが決算数字や、決算の結果で評論する経済誌やその評論家たちからは将来が導かれるものではないというのが当ブログの一貫した見方です。
とは言え何か別の指標が欲しいものです。

ウォーレン・バフェットの物差し

かのウォーレン・バフェットは2018年の株主への手紙でこう語っています。

投資のヒント~2018年株主への手紙から~バフェットの物差し

「バークシャーが保有している上場普通株式について、チャーリーと私は事業の収益性に着目して購入している。株価チャートのパターンやアナリストが設定した目標株価、メディアに登場する専門家の意見よって売買していない。投資した企業のビジネスが成功すれば、我々のビジネスも成功するとシンプルに考えている。」

改めて投資とは何かを基本に立たせてくれる、とても核心をついたバフェットの言葉で重みがあります。
企業統治も結局は収益を上げるための手段ですから、目的は企業の能力を最大限引き出して安定して収益を出せる優れた形態は何かということで、収益性を保証する一部分です。
バフエットが言う通り、チャートや経済誌の意見で株価予測することは無意味です。
株が上がる時期が分かると明言している成長株投資で有名なミネルヴィニも、チャートで予測できるかという質問に対して「できるわけがない」と答えています。
バフェットはテクニカル分析信望者にたいして賭けを提案したことがあります。
「過去の任意の一定期間のS&P500やMoody’s Handbookから10社を選び、チャートの右半分をちぎって残った左半分から先のチャートを予測してほしい。予測できない方に賭ける」と。応募者はいなかったそうです。

バフェットのシンプルな物差しの答え合わせをしながら最終章へ進みたいと思います。

【投資の方向性】三者三様そして売買戦略と買い場は

今まで見てきたことをシンプルに収益性に着目してみてみると、国内市場が頭打ちの状況で、海外事業の買収で収益を拡大していくとなると、可能性はアサヒGHDとサントリーHDになります。
サントリーは非上場なのでビール会社でどこを買うかということなら、アサヒGHDとなります。

そして買い場についてもバフェットは示唆に富む言葉で同じく2018年株主への手紙で語っています。
リスクについて論じている部分です。バフェット関連の書籍で度々出てくる内容ですが取り上げてみます。

投資のヒント~2018年ウォーレン・バフェット株主への手紙から

「大半の人は債権が安全で、株のほうがリスクが高いと思っている。だが、20年にわたって保有すれば、株のリスクは極端に高くはない。高揚して高値で買ったりせず消沈して安値で売ったりしなければ、株はリスキーではない。一方、債権はリスキーだ。税引き後の利回りがインフレ率を下回ることがあるからだ。長期的な観点に立ち、感情的になるのを避けられれば、株は良い投資になる。」

キリン、アサヒ共にコロナ禍もあり株価は落ち着いています。
サントリー食品インターナショナルも株価は行ったり来たりの状況です。

ここまでの企業分析から、アサヒGHDはアンハイザー・ブッシュ・インベブから手に入れた海外事業が順調です。収益を稼いでいます。
ホールディングスの最大のメリット「監督と執行の分離」にも気づき始めています。
しかし、2兆4000億円の投資をビール事業で回収するのは容易ではありません。そしてさらなる成長には北米が必要です。
EBITDA(利払い税引き償却前利益)が純有利子負債に占める割合が、現在の6倍から3倍以下になる2024年まで大型買収はしないと表明していますが、そんなに上手いタイミングで買収できる機会があるのでしょうか。

キリンHDは海外事業の失敗で成長エンジンがありません。失敗の原因は未だに気づかないホールディングスの最大のメリット「監督と執行の分離」が敷かれていないことです。
アサヒへの対抗とか、株主への説明とか、経営陣の自らの立場強化の海外事業買収戦略に陥っています。
今後も海外事業の企業買収は、成功もあれば失敗もある状況が続くはずです。
医薬とバイオの多角化路線も同じような原因ですが、「監督と執行の分離」がなく自由に活動できない傘下の企業は、自らの可能性を大きく下げています。企業統治がしっかりしていない状態が続けば、今後も一進一退が続くと思います。
他方、子会社麒麟麦酒は当面堅調です。国内シェアを追わなくなったアサヒの間隙をついてシェアを伸ばすでしょう。

サントリーHDは非上場企業です。投資するならサントリー食品インターナショナルになります。
創業家統治の「所有と経営の分離」が効いている企業です。
創業家の意向もあるでしょうけれど、サントリー食品インターナショナルの経営者の強い意志があれば、「やつてみなはれ」のサントリーHDは任せてくれるでしょう。
ただ、上場後の海外事業買収に目立つものはありません。
社長も3年周期で交代しています。2023年3月就任予定の国際派新社長小野真紀子氏が海外事業の買収による収益拡大にどう向き合うかだと思います。

企業統治と事業の収益性の2つの物差しで測る最善の選択はアサヒGHDです。
キリンHD、サントリー食品インターナショナルについてもそれぞれの企業の克服すべき問題点は提起しました。
その上で、20年に渡って保有してもいい企業と思うなら投資してもいいと思います。

<strong>「独り言です」</strong>
「独り言です」

キリンの企業統治は名ばかりホールディングスで一つの事業会社を分けてるだけだもんな。人事に気を取られ、決算に気を取られで海外事業買収は場当たり的な買収が続くと思う。
サントリー食品もトップに経営のプロを据えるならともかく、社内からの選抜でプロフィールも普通すぎてちょっと現状維持的な感じがしてならないよね。サントリー本体じゃないし。
買うならアサヒしかないけど「監督と執行の分離」を認識しているから巨額買収の負債や北米事業の成否など様々難題はあるけど乗り越えられると思う。
現在4300円前後で最近は下落傾向だけど明日の株価は分からない。中長期保有で買いだと思う。

※個別株予想は、あくまで個人的見解を示したもので、投資を勧誘や推奨するものではありません。
過去の実績や未来の予想は投資成果を保証するものではありません。
売却を勧めるものでもありません。
投資の判断は皆様ご自身の決定にてお願い致します。

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